フランス料理の大御所が考える「理想のプリン」
しかし、いつも極端に走るのが流行食の世界。今度は固くなりすぎないか心配になる。そこで、食通がこぞって「日本一おいしい」と絶賛するプリン(店ではクレーム・カラメルと呼んでいる)の作者であるフランス料理の大御所シェフ、銀座「カーエム」の宮代潔さんにプリン観を聞いてみた。
「卵が多ければ旨くなってコクが出るというのは誤解。卵の持ち味を生かすも殺すもカラメル次第で、苦すぎると卵の風味が死んでしまうし、甘すぎるのもダメ。口に入れると即刻『コクがあるでしょ』と主張するのではなく、まずつるんとした食感が楽しめ、次に卵のおいしさが追っかけてくる」のがよいプリンだという。
それでは、理想の固さとはどんな状態なのだろうか。
「皿に抜くと、ふるふるっとして、あ、崩れそう、倒れそうと思わせながら、ちゃんと自立している。それでいて、よろめかなくてはいけません。あくまでもなめらかで、やさしげで、でも食べると自分をちゃんと持っている。だから飽きないんですよ」
固ければいいというものでもない
なんだか、プリンが人間のように思えてきた。永遠不滅のおいしさがあり、融通無碍に変化と進化を繰り返してきたプリン。宮代さんにいわせると「単純だから逆に世界でいちばん難しく、奥が深い究極のお菓子」だ。
あんまり柔らかい食べ物ばかりを嗜好して口腔内の快感を追い求めるのは退行的だし、柔らかくて食べやすいものばかり食べていると歯並びが悪くなり、ひいては健康状態に悪影響を及ぼすそうだ。
卵で固める自然なおいしさが再評価されるのは生理的にも大歓迎だが、固けりゃよいというものでもない。よろめきがなくてはつまらない。今回のブームを機に、固すぎず柔らかすぎず、カラメルも苦すぎず甘すぎないという、微妙なバランスが探られるようになるとうれしい。