新食感ブームの中で生まれた「なめらかプリン」

プリンのソフト化には、前段階がある。それ以前にはないフワフワ感が画期的だったティラミスの記録的大ブーム(1990年)を皮切りに、タピオカ、ナタデココなどユニークな食感のお菓子が次々とヒット。「ヒット商品を生みたいなら新食感を作れ」が食品業界の合い言葉になっていた。そもそも食感という言葉はこの頃できた造語で、それまでは「質感」とか「テクスチャー」を使っていた。

なめらかプリンのイメージ画像
なめらかプリン(画像=パステルHPより)

一連の新食感ブームでソフト化プリンの先駆けになったのが、東京・恵比寿(当時)の洋菓子店「パステル」の「なめらかプリン」である(93年)。生地は牛乳だけでなく生クリームを合わせ、全卵ではなく卵黄を使い、ちゃんと湯煎焼きするのだが、こってり濃厚で超クリーミー。これを手本に大手メーカーがこぞってソフト化を推し進め、94年発売の森永乳業「焼プリン」などの揺り戻しはあったものの、飲めるくらいゆるゆる、とろとろ状まで登場し、ついには液化するのではないかと危惧したほどだ。こうしてプリンは型から出さず、カップのまま食べるものになった。

焼きプリンのパッケージイメージ
画像提供=森永乳業
初代の森永「焼プリン」(左)と現行商品(右)

また、牛乳プリン、苺プリン、バナナプリン、マンゴープリン、黒ごまプリン、チョコプリン……と、これをプリンと呼んでよいのかと思うようなバリエーションが続々と開発されて、もはやプリンの基本的概念はどうでもよい状態が長く続いていた。

やわやわで育った若い世代には固いプリンが新鮮

そこに、ひたひたとやって来たのが、卵の力で凝固させる固いプリン。昔のプリンを知っている人にとっては原点回帰現象に思われるかもしれないが、やわやわで育った若い世代が食感も味も新しいものとして受け入れたのが、流行の理由ではないだろうか。

喫茶店のカスタードプリンとコーヒー
写真=iStock.com/kuri2000
※写真はイメージです

それに加え、クリームソーダやナポリタンと同じような昭和レトロブームの影響も大きい。ガラスや金属の器にすっくと立つ姿やカラメルのキラキラ感、フルーツとホイップクリームが添えてあるプリン・ア・ラ・モードは写真映えも第一級だし、量産プリンにはないあたたかみがある。