「QBハウス」と「ダイソン」の共通点
ただし、シナジーを狙う際にはマーケティング上、決して忘れてはいけないことがあります。それが、「自社ならではの、独自性USP(ユニーク・セリング・プロポジション)」の打ち出しです。
USPは、1960年代に米国のコピーライター、ロッサー・リーブス氏が提唱した概念。よく例に挙げられるのは、「ヘアカット1200円所要時間10分」を打ち出す「QBハウス」や、「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」を打ち出す「ダイソン」など。
大切なのは、単に自社の強みを提示するだけでなく「顧客にとって、どれだけ有益な約束ができるか」を明示することです。
先の「天然水ゼリー」の場合、「原材料の一つが、大清水トンネル工事を機に見直された、谷川連峰の天然水」はインパクトある独自性ですが、これだけでは足りません。
というのも、駅は老若男女、さらに多国籍の人々が毎日のように利用する公共の場。ここで朝から晩まで、いかに幅広い顧客に必要とされる商品やサービスを、的確に提供できるか。スイカというICカードや独自の会員情報は、あくまでもそうした「顧客の便益」のために利用されてこそ、だと言えるでしょう。
女性にも刺さる新商品を諦めずに探っていく
ゆえに、「天然水ゼリー」の開発チームは、諦めていません。21年6月からは、ツイッター上で「どのようにペットボトルを振ると、ゼリーが出てきやすいか」を一般の男女に問い、「より飲みやすく」を訴求するほか、今後は各事業部のデータを有効活用し、女性やシニア層にも刺さる新商品を、粘り強く探っていきたいといいます。
逆風だからこそ、自社がもつ資産や独自性を見直し、ビッグデータやAIを活用したDXによって新たな顧客価値を創造する……。西武鉄道や東京メトロ、JR九州ほか各電鉄会社も、すでに膨大なデータを活用したUSPの追求に乗り出しました。
私たちの個人情報が適切に利用されることで、数年後の交通インフラや街づくり、さらにそこで提供される商品やサービスは、飛躍的に進化するかもしれません。