将来の中国を担う若者たちの“変化”
このリポートが示すのは、卒業生の"新しい生き方"の選択だ。振り返れば、中国には特有の職業観があった。2000年代前半、筆者が居住していた上海で、多くの若者に共通する将来の夢は「有名企業の管理職か社長になりたい」というものだった。彼らの両親も、子息が国営か外資系の大企業に就職することを望んでいた。
若者の憧れの職場は、時代とともに変化した。2000年代中盤から住宅ブームが到来し、不動産会社が人気の職場となった。2010年代の株バブル期は、破格のボーナスが出るという証券会社にスポットが当たった。国家が経営母体の中央企業にも希望者が殺到した。いずれも短期間のうちに高年収を稼げることで共通している。
一方で、フリーランサーの地位も徐々に高まった。少なくとも2000年代の中国でも、所属企業のないフリーランサーという働き方は異端視され、卒業生の誰もが雇用先を探していたものだが、リポートからも分かるように、新しい世代はフリーランサーへの抵抗をなくしている。
それを象徴するのが、フリーランス的な働き方ができるライバーだ。企業の厳しい労働条件に縛られることもなく、「売り上げ金額10億元(約170億円)」などという一獲千金も夢ではないため、2020年代に入ると、ライバーに夢を託す若者たちが出現した。実際、大学や専門学校在学中にライブコマースの味をしめ、卒業後もこれを生業にする人材は少なくない。
政府の切羽詰まった状況が見て取れる
「ライブ配信者」が中国で正式な職業に認定されたのは、「産業の構造転換」と「労働観の転換」で、従来の雇用がもはや受け皿とはなり得なくなったためだが、市場規模が拡大するライブコマースを、フリーランサーのまま水面下にとどまらせておくわけにはいかないという、政府の焦りも垣間見える。
これを正規の職種に格上げすれば、少なくとも「公認の職に就業している人数」は増え、統計上の体裁も整うからだ。仮にこのまま卒業生の就職動向を正確に把握できない状態が続けば、政府の雇用政策に影響が及び、ひいては国家の基盤を大きく揺るがすことになりかねない。
デジタル革命により、中国では誰でもスマホひとつで金が稼げる時代になった。「ライバーの公式認定」からは、普通のサラリーマン職に関心を失い自由な生き方を望む中国の90后世代と、それを必死で追いかける中国政府の、切羽詰まった状況が見て取れるのである。