中国は怖くないが、独立したいとも思えない
(前編から続く)
8月初旬、中国は台湾を包囲し、大規模な軍事演習を行った。台湾市民は、阿鼻叫喚の大パニックになっているのではないかと想像したが、至って“どこ吹く風”だった。
8月16日に台湾の民間シンクタンク「台湾民意基金会」は、大規模軍事演習について世論調査(8月8日~9日、20歳以上の1035人が対象)を行った。それによると、78.3%が中国の軍事演習を「怖くない」と回答した。
今回の軍事演習はペロシ米下院議長の訪台直後に行われ、中国からの圧力が強まるのではないかと危ぶまれていた。しかし、台湾周辺での軍事演習は今に始まったわけではないこともあり、台湾の人々が「いつものことだ」と“慣れっこ”になっている様子が見てとれる。
また、このアンケートからは台湾人による「独立支持」が減少したことも分かる。3月の調査では52.7%だったが、8月には50%に減った。「両岸統一(台湾と中国の統一)」を支持する割合は、3月の16%から11.8%に減った。その一方で、「現状維持を望む」とする回答は3月の16.9%から、8月には25.7%にまで増えた。
これらの結果を総合すると、中国の威嚇は怖くないが、かといって「独立だ」ともはっきり言えず、現状維持を望む人が増えている状況が分かる。なぜ台湾の人々は「現状維持」を選ぶのだろうか。
「台湾>中国」の立場が逆転した日
前編では、中台の経済関係に蜜月が訪れたところで話は終わった。その後、両岸関係がどうなったかについて触れておきたい。台湾と中国の実力の差に“逆転現象”が起き、台湾人の心の中に“モヤモヤ”とした感情が生じ始めるのである。この“モヤモヤ”は日米の国民にも共通するが、昨今のナショナリズムの高まりはこうした割り切れない感情と無縁ではない。
台湾で親中派といわれる馬英九政権(2008~2016、国民党)が発足し、さらに中台間のヒトモノカネの往来が活発化したまではよかった。ところが、台湾から大陸に人や資金が流れ込んだように、今度は大陸から台湾に向かって大波が逆流してきたことに台湾人は面食らった。