何度も米国に見捨てられた“苦い過去”がある
目下、米国議会は1979年に制定された「台湾関係法」を43年ぶりに全面的に見直し、「2022台湾政策法案」の成立を目指している。今年6月、上院の外交委員会が提出したその中身は「今後4年間で45億ドル(約6300億円)の軍事支援を台湾に提供する」というものだ。
旺さんは米台中の動きを注意深く見ている。
「米国は戦後、内戦で国民党が劣勢になると『国民党政府の腐敗によるものだ』と中華民国を見捨て、さらに1979年の断交で見捨てた。1952年のサンフランシスコ講和条約で台湾や澎湖諸島を日本に放棄させたが、その帰属先を『中国』だとは言っていない。米国には、台湾の地位をあえて曖昧にし、自国の国益につなげるという深謀遠慮もあったのではないでしょうか」
ちなみに、台湾民意基金会が行った「アメリカが台湾を守るために軍隊を送ると思うか」という調査に対して、47.5%が「信じない」と回答し、44.1%の「信じる」を上回った。そう簡単に“国益重視の米国”を信じない台湾人の「用心深さ」が滲み出る。
憲法改正したとたんに中国との戦争が始まる
とはいえ、台湾が中国と手を取り合うシナリオも現実味を失いつつある。中国は台湾統一を「平和的手段による一国二制度の実現」と構想するが、香港の今を見れば「一国二制度」は有名無実化している。習近平氏の時代が3期目に突入すれば、“暗黒時代”がこの先も続くことになる。
そうだとしても、その中国に台湾が背を向けるということは、「市場を失い、生活を失う」ことをも意味する。中国には世界最大の半導体受託製造の台湾積体電路製造(TSMC)やスマートフォンなどの電子機器を受託生産するホンハイが進出する。これ以外にも、コンピューター周辺機器やネットワーク通信設備などの電子産業や医療やエネルギーなどの分野に、台湾企業が裾野を広げた。
台湾にとって中国は最大の輸出市場であり、台湾は2008~19年まで、常に上位3位以内の中国投資国(地域)だった。一説によれば、中国の台湾企業は26万社あるといわれている。
しかしペロシ氏訪台をきっかけに、一部の「独立支持派」の台湾企業が中国からの制裁を受け取引が禁止される事態となり、今後の展開が危ぶまれている。
さらに、難しい問題がある。憲法問題について、旺さんはこうも語っている。
「中華民国憲法では台湾は『台湾省』のまま。中華民国の主権は大陸全土に及んでおり、現状、その中の省を治めているという扱いです。憲法を改正しないことには独立もできないわけですが、改正したとたんに中国との戦争が始まる……。中華民国が台湾に渡ってきて70年余り、台湾の人々が過去の歴史にどう向き合うか、現実との狭間で非常に難解な命題を突きつけられているのです」
実際のところ、台湾ではこれまで7回にわたり憲法が改正されたが、陳水扁政権の2005年に行われた第7次の改正では、主権、領土、統独の問題には至らず、省政府の存廃も未解決の課題として残された。