マナーの悪さ、遠慮のなさに嫌悪感

象徴的だったのは、経済力をつけた中国人観光客だった。マナーに乏しい大陸の観光客が「台湾は遅れている」と率直な感想を述べ、大陸の資本が台湾のインバウンド市場に入り込み、ホテルや旅行会社、さらには土産店や土産工場までも根こそぎ買収した。そんな遠慮のなさを目の当たりにすると、台湾の人々の中国のイメージは急激に悪化した。

かつて多くの中国人観光客が野柳地質公園を訪問。一部のマナーの悪さに台湾人からは悲鳴が上がった
筆者撮影
かつて多くの中国人観光客が野柳地質公園を訪問。一部のマナーの悪さに台湾人からは悲鳴が上がった

「私の台湾の友人はみな、この頃から『私たちは中国人ではない』という強い意識を持つようになりました。中国への思いは急速に冷めてしまったのです」(都内在住で台湾出身の張玉英さん)

気がつけば台湾はいつの間にか中国に追い抜かれ、取り込まれ、中国の顔色を見るようになっていた。特に、習近平政権発足(2012年)以降は、台湾のみならずアジアの小国は中国を恐れるようになっていた。2017年に公開された中国映画『戦狼ウルフ・オブ・ウォー』は中国で大ヒットを記録したが、これに象徴される“攻撃的な外交スタイル”は世界の国々をおびえさせた。

台湾で売られているキーホルダー。近年、市民の間で「台湾アイデンティティ」が強まっている
筆者撮影
台湾で売られているキーホルダー。近年、市民の間で「台湾アイデンティティ」が強まっている

中国からすれば「独立への既成事実を積み重ねている」

2016年に発足した民進党の蔡英文政権で中国との対立はさらに先鋭化した。2018年以降、対立を先鋭化させる米中関係の狭間で、台湾は米国に足並みをそろえ「サプライチェーンの脱中国」を政策として実行するようになった。新冷戦構造がさらに深化する2020年代、台湾は米中の二大国の覇権争いの渦中に置かれている。

「中国を封じ込めたい米国と、“抗中保台“を掲げる民進党政権が急接近している現状は、中国からすれば、台湾独立への既成事実を積み重ねているように見えます」

こう話すのは、清代末期生まれで、中華民国の世を生きてきたという祖父母を持つ旺志明さん(仮名)だ。“抗中保台”とは「中国に抵抗し台湾を守る」という意味を持つ。