異常なまでに凝ったつくりのレコードジャケット

イエスファンになりたての私は、この最新作が欲しくて欲しくて、家の手伝いを懸命にしたり、頼まれた買い物のつり銭をくすねたりして必死に4500円を貯めた。だから、人のではなく自分の『ソングス』(プログレファンは略してこう呼ぶ)を手にした日の感激は忘れられない。友人宅で聴いていたので中味そのものはだいたい知っていたが、人のではなく自分のレコードの分だけ、ばかばかしいことだが演奏も音もいいような気がしたものだ。なにしろ、いつでも自由に聴けるのがたまらない。

イエスのアルバムはジャケットも素晴らしいのはプログレファンならご存じの通りである。主にロジャー・ディーンというイラストレイターが手がけていて、耳だけではなく目でも楽しむことができた。

なかでも『イエスソングス』のジャケットは異常なまでに凝ったもので、3枚のレコードと解説・付録が入る計4つの袋を綴じた分厚い冊子8ページに渡って、物語性のあるイラスト(太古の昔、宇宙からある惑星に星々の断片が次々に落ちてきて生命がもたらされ、生命は魚のような生き物から鹿のような動物、人間にまで進化する。そこへある時、どこからとも知れないが宇宙船がやって来る。はたして彼らの目的は……といった物語。私の勝手な解釈)が描かれ、おまけに何とオールカラー12ページのステージ写真集まで付いているという豪勢なものであった。

イエスは、前前作『こわれもの』(1971年)前作『危機』(1972年)の好セールスとこれらを引っ提げてのツアーで世界的な成功を収めており、『イエスソングス』はその余勢をかい、満を持して発表した3枚組ライブだった。レコード会社もメンバーも「売る」ことに自信があったと思う。それなのにジャケットをケチな作りにせず、自宅で聴くファンのために大興奮のステージ模様を伝える写真集まで付けた。私たちは、このファンを大事にする彼らの姿勢に好感を持ったのである(利益率は下がるが、結果的にそれで売れ行きが伸びたともいえる)。