洋楽仲間の間で生まれた「担当制」

しかし実は、もっと切実な、経済的な理由があったこともたしかだ。

1970年代前半、アルバムは1枚2000円から2500円ほどしたが、これは当時の中学生には大変な出費である。そうそうは買えない。したがって、人のレコードを聴かせてもらって(その際お返しに自分のレコードを聴かせてあげることが大事だ)、持っていない分を補うしかない。レコードで聴かなくてもカセットテープ(これは10代20代の人にはまったく意味がわからないだろう)に録音すればいいではないかと思うかもしれないが、友人が貴重な小遣いをはたいて買ったものを簡単に録音してくれとは言えない、そんな雰囲気があったのだ。

こういう現実の中で私たちが考え出したのが、いや自然発生的にそうなったのか、ともかく「担当制」だった。

○組の△△はツェッペリンにはまっているらしい、○組の○○はアメリカのフォークに強いようだ、□組の××はビートルズマニアだ、中でもポールのソロは全部揃えている──そういう話はいつのまにか、うまい具合に同学年の音楽ファンに広まっていくものだ。

プログレに限らずサイモンとガーファンクルでもユーライア・ヒープでもCSN&Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング)でもいい。井上陽水でもアグネス・チャンでもいい。まずは仲間内で「俺こそは」という最高のファンを自認するやつが「担当」となり、あるバンド、アーティストのレコードを集中して揃え、かつ極力フランクに皆に聴かせるのだ。

三枚組4500円『イエスソングス』の思い出

こうして、私たちはいろいろなバンド、歌手、アイドルたちのいろいろなレコード、アルバムを聴くことができたわけだ。私がプログレにはまったのが1973年の春だったが、この年の終わりには、すでにプログレ四天王(編集部注:キング・クリムゾン、イエス、エマーソン・レイク&パーマー、ピンク・フロイド)の「担当」は決定していたと記憶する。もちろん私は、イエスの担当だった。

3枚組ライブアルバム、『イエスソングス』(1973)のジャケット
3枚組ライブアルバム、『イエスソングス』(1973)のジャケット

レコードの値段の話が出たら、どうしても触れておきたいのが、イエスのその名も『イエスソングス』(“Yessongs” 1973年)というライブアルバムだ。3枚組で4500円した(編集部注:後のCD版は2枚組)。老いたサラリーマンとなった今でも4500円はそれなりに使い出のある金額だが(好きな本を買って軽く一杯やって帰れる)、まだ少年である中学生にとっての4500円はとんでもない値段だった。今の10万円ぐらいの感覚だろう。実際のボリュームはシングルアルバム×2でしかないのに、なぜか5倍、10倍のインパクトがあったのだ。