ファンをがっかりさせたELPの3枚組
ところで、翌1974年、エマーソン・レイク&パーマー(ELP)が同じく3枚組のライブアルバム『レディース&ジェントルマン』("Welcome Back My Friends To The Show That Never Ends")をリリースした際、『イエスソングス』並みの豪華なジャケットを期待したものだが、案に相違した低レベルのものでファンをひどくがっかりさせた。
表紙はアルバムタイトルのロゴのみ、中の3ページを「E」「L」「P」の巨大な3文字だけで使い切るという明らかにやる気のないデザイン。色合いも淡泊でカラー写真は裏表紙のたった1枚、しかもピンボケのステージ遠景という悲しくなるくらいの粗末な作りであった。
私は、この手抜きジャケットに表れたELPの、最近の言葉でいう「ファンファースト」でない姿勢がその後の彼らの人気の凋落の遠因ではないかとさえ思っている。なお、同作は録音面においても、重低音の再現性が非常に悪く(つまりグレッグ・レイクのベース音が小さく、明瞭でない。聴き取りづらい)、この面でも『イエスソングス』に大きく劣っている。
ジャケットもアルバムの重要な構成要素だった
田舎の中学生でもレコードのジャケットはそれ自体がアルバムの重要な構成要素であるという認識は持っていて、できるだけ汚さないよう皆気を遣っていた。まさか手袋はしないが、仲間と部屋にこもってレコードを聴く時、草野球などして汚れた手のままで触るなど絶対に許されない、そんな雰囲気があったと思う。
友人の『イエスソングス』を取り扱う際、大切な宝物にしているのがよくわかるから特に注意したものだが、実際に購入すると今度は自分のレコードだから重みがちがってことさらていねいに扱った。まさか抱いて寝はしないが(そんなことをしたら余計に傷んでしまう)、好きになった女の子の写真のように、何度も何度も眺めては悦に入っていたものだ。
当時プログレに限らず、洋楽アーティストの情報は、ごくごく限られたものだった。文字情報(ニュースやヒストリー)も写真(新しいものも過去のものも)も容易に手に入らなかった。映像となればなおさらである。というか好きなバンドの映像を自由に入手するという発想すらなかった。
だから、レコードを聴く時にジャケットをじっくり見ること、解説や訳詩を熟読することは支払った代金の元を取ることであり、作品制作に込めたバンドの意図を読み解くための重要な行為だったのだ。
『イエスソングス』の場合は、レコードを聴きながら写真集を眺め、その場(遠く離れたライブ会場)にいる「臨場感」を味わい、また、イラストを眺めながら、彼らが音楽に込めた、または触発されたであろうイマジネーションを共有しようとしたのである。