友人と二人、居住まいを正して聴く

次に、読者に10代とか20代の若い人がいたとして、何も20分間黙っていないで曲を聴きながら話をすればいいではないかと思うだろうが、プログレはちゃんとして(居住まいを正して)、気合を入れて聴く音楽だった(以下、年齢に限らず異論のある方はお許しください)。

まさか正座はしないがだからといって寝転んで聴くのははばかられるような、そんな雰囲気があったと思う。おしゃべりは不可なのである(ただし、自分ひとりで聴く時は寝っ転がってでも許される。友達と聴く時だけのルール)。

したがって時折、

「おい、今のところ、かっこいいよなあ……」
「……(うむ)……」とつぶやく程度。

そして20分後、曲が終わった時、待ってましたとばかりに、

「何回聴いても感動するなあ!」
「おお。ギターがたまらん!」などと絶賛し合う。で、そのあと、
「でも、このバンドの肝はベースじゃないか」
「いや、ギターだ。なんでかと言うとだなあ……」というふうにひとしきり論評し合い、
「それじゃあ、次はB面を聴こう」

とレコードをひっくり返し針を下ろす、そうするとまたしばらく会話は止まる。

あっという間に時間が立ってしまう

ということで、アルバム2、3枚をフルに聴いて曲の合間に感想を語り合うと4時間ぐらいはあっという間にたってしまう。

これでは平日の帰宅後ならもちろんのこと、週末の午後、昼飯のあと落ち合ってもすぐに夕食の時間となる。

「いかん。もうこんな時間だ。帰らないとお袋に怒られる」「じゃあな」となる。

ただただレコードを聴くばかりで、結局一言も言葉をかわさなかったことすらあったような気がするのだ。

このように時にろくに話もできず、最後はあわただしく別れることになるなら、はじめから自分ひとりでゆっくり聴けばいいではないかと思うかもしれない10代とか20代の若い人が読んでくれているとして、でもこのことは少しわかってくれる気がする。

友達と一緒にプログレを聴くのにはそれなりの理由があるのだ。

友人の感想や批評を聞き、自分が気付かなかった聴きどころを教えてもらう楽しみ。同好の士として好きな曲やフレーズを確認したり思いきり意見を戦わす喜び。これが一番の目的だ。補足するとプログレは難解な歌詞やテーマ、音楽の表現にも初めて聴くタイプのものが多いので、「あなた(他人)はどう思うのか」「いったいこれはどういう意味なのか」「果たして何の音なのか」と尋ねたり、学んだりすることが必要で、これがレコードを聴く喜びの一つだったのだ。