日本を代表するロックバンド「サザンオールスターズ」の曲は、なぜ世間を引きつけるのか。音楽評論家のスージー鈴木さんは「桑田佳祐はロック音楽に合わないテーマもさらりと歌にする。これは他のミュージシャンには簡単にはできないことだ」という――。

※本稿は、スージー鈴木『桑田佳祐論』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

サザンオールスターズ『ピースとハイライト』CDジャケット
画像=サザンオールスターズ『ピースとハイライト』CDジャケット

緊迫する日韓関係にフォーカスした「ピースとハイライト」

サザンオールスターズ「ピースとハイライト」
作詞:桑田佳祐、作曲:桑田佳祐、編曲:サザンオールスターズ、管編曲:原由子、山本拓夫
シングル、2013年8月7日

2013年にシングルとして発表され、翌14年のNHK「紅白歌合戦」で歌われ、炎上騒ぎとなったあの曲だ。

炎上騒ぎから遠く離れて、記憶も曖昧になっているこのタイミングで、もう一度歌詞を味わって、意味と価値を考えるべき曲だと、私は考えている。

そもそもタイトルからしてものものしい。新宿ロフトなどのライブハウスを運営するロフトプロジェクト代表の平野悠は『週刊金曜日』(15年1月23日号)に寄稿した「『ピースとハイライト』は時代を変えるのか」において、「この曲名には『平和(ピース)と極右(ハイライト)』という別の意味がある」と書いている。

そんなものものしい曲は、「♪何気なく観たニュースで お隣の人が怒ってた」という歌詞から始まる。「お隣の人」という柔らかい表現でくるまれた国は、もちろん韓国だろう。

発売の1年前、12年の日韓関係における重要な事件といえば、終戦記念日(韓国においては「光復節」)直前の8月10日に起きた、ミョンバク大統領(当時)による竹島上陸である。

また、このような日韓関係の緊張を背景として、いわゆるヘイトスピーチが撒き散らされることとなり、東京・新大久保や大阪・鶴橋などで「朝鮮人を殺せ!」などの強烈なメッセージが連呼されていた。

普通の人が普通の視点で日韓関係を見つめる曲

「ピースとハイライト」を解釈するにあたっては、記憶に新しい、新しいけれど、少しばかり錆び付き始めている、このような当時の記憶を、前提としなければならない。

このような、緊張感溢れる日韓関係に対して、「♪何気なく観たニュースで お隣の人が怒ってた」というフレーズは、いかにものんびりしている。まずはニュースを「何気なく」見ているし、「お隣の人」というのも、どこか他人事である。

ただ、その分、この歌詞における一人称は、普通の一般生活者であり、要するに私たち自身に通じるものとなる。だからこそ、この曲は、一部のいきり立った人々だけではなく、多くの人に開かれ、多くの人に自分ごとと感じさせる普遍性を持っている。

普通の人が普通の視点で日韓関係や現代史を見つめたら、どうなるか? どんなに普遍的で楽観的な展望が描けるのか?──「お隣」という柔らかい表現で始まっている曲だが、にもかかわらず、ではなく、だからこそ、本質的にラディカルな曲なのである。