なぜ日韓関係が緊張しているのかを現代からさかのぼる
では、なぜ「お隣の人が怒っ」たのか、という問題になる。この時期の日韓関係がなぜ緊張したのか。当然この問題は、当時の話を超えて、従軍慰安婦問題や日韓基本条約(1965年)、ひいては太平洋戦争の話へとつながっていく。
この曲の主人公は、先に書いたように、普通程度の問題意識を持った普通人である。「教科書」が出てくるということは学生なのだろう。普通の学生。ただ、ちょっとだけ意識は高いようで、「現代史」を「一番知りたい」と思っている。
確かに、時系列に沿ったかたちで、半分おとぎ話のような古代史から始まることで、歴史という科目は、いきなり人を選んでいると思う。「おとぎ話」にロマンを感じるか否かによる選別。無論、古代史の授業が必要ないとは言わないが、現代の若者にとって、時代と隣接した現代史の方に関心を持つことは、自然なことだろう。
私は両親とも社会の教師だったので、子供の頃たまに、歴史教育に関する会話を交わしたことがある。その中で「時系列とは逆順で、現代からさかのぼって歴史を教えるべきだ」という考えがあることを知った。
最近では、河合敦という歴史研究家が『日本史は逆から学べ』(光文社知恵の森文庫)という書籍シリーズを発表しており、サイト「本がすき。」内の記事、「なぜ歴史は“逆”から読むととたんに面白くなるのか?」(18年11月21日)で、インタビューにこう答えている。
太平洋戦争があって、慰安婦問題があって、日韓基本条約があって……その結果として、日韓関係が緊張したという論法ではなく、「なぜ今、日韓関係が緊張しているのか?」という、時代に沿った極めてシンプルな問いからさかのぼって、学びをスタートさせていく。両親とは違って、私自身は歴史教育に明るくないが、それでも、このメソッドの有効性は、感覚的によく分かる。
日本のロック音楽家は過去のロック音楽を知るべき
「日本がアメリカと戦争をしたことを知らない若者が増えている」などの記事をよく目にするが、そんな現状に至った大きな要因の1つは、古代史から、ゆっくりのっそりと進んでいく歴史教育のメカニズムにあるのではないか。そのメカニズムは、一部の歴史マニアを生むのと引き換えに、太平洋戦争を知らない若者を量産している。
歴史教育の話は手に余るので、一旦ここでおくとして、私が語れる/語りたい「日本ロックの歴史教育」の話をする。年寄りじみたことを言うが、私は、日本の若いロック音楽家は、過去のロック音楽をもっと知るべきだと考える。