知ることによって、原理原則が分かる。原理原則が分かることによって初めて、原理原則をどうアレンジするか、どう超えていくか、どう蹴り飛ばすかという発想が生まれる。

例えば、「とにかく吉田拓郎を聴け」ではなく、Mr.Childrenから入って、桜井和寿のボーカルスタイルとの近似性で、浜田省吾を紹介し、その浜田省吾を生み出すキッカケと土壌を作った人物としての吉田拓郎、という順番で説明していくと、若い音楽家にもピンと来ると思うのだ。

ロックで扱われないテーマをシンプルに歌う桑田佳祐の功績

ちなみに私は、今の日本の若いロック音楽家が、最も知らなさ過ぎで、つまり最も知るべきが、他ならぬサザンであり桑田佳祐の功績だと考える。一見、大衆に浸透し過ぎていることが、逆に、その本質を見えにくくさせている。サザン/桑田佳祐は、その功績が「最も知られていそうで最も知られていない」音楽家ではないだろうか(逆に、はっぴいえんどは、その功績が「最も知られていなさそうで最も知られている」音楽家かも)。

「♪何気なく観たニュースで お隣の人が怒ってた」「♪教科書は現代史を やる前に時間切れ そこが一番知りたいのに」──国際問題や歴史教育という、ロック音楽ではほぼ扱われないテーマについて、これほどシンプルに、これほどあっけらかんと歌った音楽家が、かつていただろうか。これは、サザン/桑田佳祐の、「知られていそうで最も知られていない」功績の1つだと思う。

楽観的なメッセージソングであることを桑田佳祐も分かっている

「お隣の人」「教科書は現代史を やる前に時間切れ」という、切っ先鋭いフレーズによる緊張感が少しだけ緩むのは、サビに入ってからである。

「♪希望の苗を植えていこうよ 地上に愛を育てようよ」。ここは、少しばかり深みに欠けるというか、通俗的というか、とにかく、「ピースとハイライト」を「ピースとハイライト」たらしめている緊張感が解ける瞬間である。ただし、その緩みは、続くフレーズによって、見事に相対化される。

──♪絵空事かな? お伽噺かな?

「♪希望の苗を植えていこうよ 地上に愛を育てようよ」と歌った後に、「さすがにこれ、言葉がちょっと上滑りしてますかね?」と、但し書きが加えられる。「その上滑り感、歌っている俺たちも分かっているんですよ」と。

「絵空事かな? お伽噺かな?」による相対化は、単に「♪希望の苗を植えていこうよ 地上に愛を育てようよ」だけでなく、曲全体を相対化する。極めて楽観的なメッセージソングである「ピースとハイライト」に対して、「これが楽観的過ぎること、歌っているこちらも、重々分かっているんですよ」と。