アウティング防止の方法はたった一つ

アウティングはしてはいけないことですが、防止する方法はいたってシンプルです。それは「本人に確認する」ということです。誰にまで伝えているのか、誰にまで伝えて良いのかを聞くこと、たったそれだけです。

もし万が一、アウティングが起きてしまったらどうすれば良いでしょうか。まずはアウティングしてしまったことを本人に伝えて謝罪し、伝えてしまった相手にも事情を説明しつつ、それ以上勝手に広がらないようにしましょう。再発防止策についても事前に検討しておくことは重要でしょう。

神谷悠一、松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』(集英社新書)

国内でも東京都国立市や豊島区、港区で条例に「アウティング禁止」が盛り込まれています(2020年6月現在、三重県でも検討中)。海外でも、例えば、EU圏内の個人データやプライバシーの保護を規定する「GDPR(一般データ保護規則)」にも「性的指向」は要配慮個人情報のカテゴリーに入っており、情報を取得する際には、本人の同意が原則となっています(この原則は、一部日本国内でも適用される場合があります)。カナダのオンタリオ州でも、「性的指向」「性自認」に関する情報は機密性の高い項目と規定されています。

悪意はもちろん、たとえ善意であっても、アウティングは危険な行為だという認識の上で、本人確認を徹底することが大切です。

「私は気にしない」が「差別しない」だと思ってしまう人たち

LGBT等の施策について話をしていると、わざわざ自分から「いやいや、私は特に差別をしないし、気にしてもいない。だから何もしないで自然体でいいじゃないですか」と発言される方と出会うことがあります。一見、「前向きに考えてくれるいい人だな」と思ってしまいがちですが、私(神谷)には「かなり対応が難しい人」というように見えます。

その理由は、「セクシュアルマイノリティであることを気にしていない」から「何もしなくていい」というところです。

ここまでいくつか紹介してきたように、現在の日本社会の職場には、大なり小なり、セクシュアルマイノリティに関するさまざまな困難が転がっています。採用拒否から始まって、いじめやハラスメント、異動や退職勧奨、男女別取り扱いによる困難などの課題を挙げることができます。

また、日常会話一つにも、あれやこれや気を遣わざるを得ない状況にあります。相手の顔色を窺いながら、自分がセクシュアルマイノリティだと疑われないように、プライベートな話題に深く入り込んでくることのないように、注意深くその場の会話をコントロールし、なんとか切り抜け、やり過ごす、そんな人も少なくない状況です。

このような状況下にもかかわらず、「何も気にしないから、何もしない」ということをあえて言われてしまうと、自分は状況を変えるつもりはない、困難は困難のまま抱えていてくれ、というメッセージにも受け取れてしまうのです。