ワクチンで防げたはずの感染症リスクが降りかかってくる

子どもは年齢にもよりますが、比較的短い期間に多数の予防接種をしなくてはなりません。大人の予防接種と違って子どもの予防接種は、季節に関係なく本人の年齢(月齢)で予防接種の予定が組まれています。そのために、COVID-19の流行が本格的になった2020年3月から本稿を書いている9月までの半年の間に、子どもによっては10種類以上のワクチンの接種が受けられていない、あるいは接種したワクチン数が少なくなっている可能性があります。

特に生後2カ月から6カ月に予防接種は集中しています。接種予定の月齢をワクチンごとに示すと、ヒブ(インフルエンザ菌髄膜炎ワクチン)は、2、3、4カ月(3回)、肺炎双球菌ワクチンは、2、3、4カ月(3回)、ロタウイルスワクチンは2、3、4カ月(3回)、B型肝炎は2、3カ月、そして4種混合ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、ポリオ)は3、4カ月です。例えば今年2月に生まれた乳児が、これら全ての予防接種が受けられないとすると、8種類13回の予防接種が受けられていないことになります。

もちろんスケジュールを過ぎても予防接種は受けることができますが、それまでの間乳児はこれらのウイルスないしは細菌感染からワクチンによって守られていないのです。2カ月という早期からワクチンを接種する理由は、ワクチンで予防できる感染症は乳児期にかかると重症化するものがあるからです。インフルエンザ菌による髄膜炎などはその典型です。もちろん2月から6カ月間全てのワクチンを延期している乳児はいないと思いますが、少子化とはいえ1年間には86万人の乳児が生まれますので、COVID-19感染を懸念して小児科医受診を手控える子どもの累計はかなりの数になる可能性があるのです。

そして、ワクチンに守られていない子どもに、麻疹、風疹、水痘、おたふく風邪、インフルエンザ髄膜炎、ロタウイルスによる重症下痢などの感染症が襲いかかる可能性が高くなるのです。大人や子どもが、COVID-19感染を避けるためにとった行動(小児科受診控え)は、現在から近い将来にかけてワクチンで防ぐことができる感染症の増加となって降りかかってくることが心配です。

発達健診の機会の減少がもたらすこと

もう一つの危惧は、健診などの機会の減少です。予防接種は子どもの感染症防止という明らかな効果がありますから、COVID-19感染の多少の危険を冒しても受けさせるが、直接病気予防に関係なさそうに見える発達健診を控えるという判断をされる親もかなりいるのではないでしょうか。

直接疾患には関係なくても、発達健診で気がつかれるさまざまな状態の発見が遅れて、子どもの健康や発達に影響が出る可能性も無視できません。運動発達や言葉の発達遅れを早期発見する機会を見逃したり、低身長や貧血といった不十分な栄養やホルモン状態の発見が遅れる可能性があるのです。自閉症スペクトラム障害やその他の発達障害の診断が遅れることによって、適切な療育の開始が遅れることもあるかもしれません。