胎児期から心臓の病気はわかる

その1つは、もちろん患児のことです。今は検査技術が発達して、妊娠中から胎児の心臓の状況がわかります。出産後間もない時間で手術に臨むこともよくあります。

残念ながら手術で亡くなること、逆に奇跡的に助かること、また、心臓以外の病気が合併して手術の適応外となること、さらに胎児期に治療を断念する選択をすることなど、赤ん坊の魂というものを考えれば考えるほどに、外科医になった意義以上に自身の無力さを痛感することになります。

もう1つ思うことは、我々医療従事者のことです。心臓手術はチーム医療の最たるものといわれます。ゆえにチームワークが大事だとよくいわれますが、それは単に仲がいいということではありません。チーム各員の技量がすでに突出していて、手術中は最高のスキルをお互いに見せ合うようなものでないと、チーム医療とはいえないのです。

小児心臓手術の仕事は、子どもや親御さんたちの切実な要求と日々向き合い、極度のプレッシャーの中で最高のパフォーマンスを発揮すべく、絶えず己を磨き、チームづくりをしていくことが必要です。

そのような技量や最高のスキルを見せ合うことのできる手術チームは、多少顰蹙を買う言い方かもしれませんが、赤ん坊の心に対して常に愉しそうに接して話しかけることができます。我々が愉しみながら赤ん坊の命と魂を救う、そのことが“何と幸福なことか”とみなが思えるようなチームを育成してくべきだと思います。

患児の生死にかかわる「時間短縮」

私が小児心臓手術を行う際に、きわめて大事だと考えていることが2つあります。

1つは「時間短縮」です。いかに努力しても、2~3時間、心臓を止めて行わなければならない複雑な心臓手技があります。このような長い手術では当然、全身臓器のダメージや非生理的変動が強くなりますので、患児の生死にかかわる可能性が高くなります。

そのため外科医は、今までの経験から独自につくり上げてきたポリシーと治療戦略(ストラテジー)によって時間短縮に向けて努力をします。特に小児心臓外科医は時間短縮に徹底的にこだわらなくてはいけません。