心臓を止める「20分」の「時間感覚」
しかし、それ以上に大事なのは、「心筋保護液注入」の時間感覚です。これは心臓を止めるために用いる薬剤で、注入は約20分間隔で繰り返し行います。そのあいだ、執刀医の手だけでなく、手術の流れが止まることになります。
したがって、心臓を止めたあと、次回の心筋保護液を注入するまでの20分間にどこまで手技を進めて次の手技に移るか、もしくは、次の心筋保護液を注入する時期を考慮して各手技の時間をどれだけ有効に使うかなど、この20分間の使い方が手術の大きなポイントになります。そして、最も有効な時間短縮へとつながるのです。
20分という間隔をいかに大事にするか。この20分という時間は、小児心臓外科医のみが有する特殊な時間感覚であるような気がします。たとえるなら、ボクサーの試合における3分間の時間感覚と同じようなものかもしれません。
私たちは20分の中で停滞しない手技の流れをつくること、そして間をつくることによって、時間短縮という低侵襲性の獲得を目指しているのです。
手術全体の流れを整える「皮膚感覚」
次は皮膚感覚です。
低体重児の手術では、小さい心臓の周辺で外科医の大きな手が交錯することになります。そこで求められるのは、お互いの手を邪魔しない皮膚感覚です。特に執刀医の多くはわがままですから、自分のテリトリーにほかのスタッフが入ってくることを好みません。
手術がスムーズに流れることは、当然、時間短縮につながっていきます。流れのよい手術では、お互いに自然と気を配って手がぶつからないように、邪魔にならないように手術の流れをつくっていきます。
このような皮膚感覚を身につけるために必要なのは、手術全体の流れを通して見ることに尽きる、といっていいでしょう。