患者さんの体に負担の少ない「優しい手術」を目指して

当院では、ほかの施設と比較して半分から3分の1ぐらいの時間で手術を行います。見学に来られた先生方はびっくりされます。

私はほかの病院の先生方の手術をあまり見たことがないので、「なぜそんなに短いのか?」と聞かれても「必然的にそうなってしまった」としか答えられないのですが、短時間で手術を終わらせることは何よりも手術を受ける子どもたちのためなのです。小児心臓外科手術の低侵襲対策(患者さんの体に負担の少ない「優しい手術」にすること)として、時間短縮は最も大事なことなのです。

ここで注意すべきことは、「事前に決めた戦略にこだわり過ぎない」ということ。1つの戦略にこだわりすぎると、望まない問題が数パーセントの確率で必ず発生します。逆に、別の戦略に切り替えると、その数パーセントの問題は解決しますが、新たな別の問題が数パーセントの確率で発生する可能性が出てきます。

つまり、自分のポリシーや戦略にあまりこだわっていると、望まない問題が発生した場合に対応できなくなるのです。大事なのは、よくいえば「柔軟に」数パーセントの問題に対処することであり、悪くいえば「少しいい加減に」途中で出現した矛盾に対して解決していくことです。要は、手術の流れに沿うように要路よく流れをつくっていくことが求められます。

医者と患者の手でハートの形のハンドサイン
写真=iStock.com/Pollyana Ventura
※写真はイメージです

基本「手技」を極めることが大切

もう1つ大事にしているのは、小児心臓外科医に特有ともいえる時間感覚と皮膚感覚です。

小児心臓手術には、心臓の穴を閉じる、狭くなったところを広げる、弁を修復する、血管をつなぐなど、基本的な「手技」がいくつかあります。ほとんどの手術はその組み合わせで行いますから、手術時間の長短は組み合わせの数で決まります。

難易度が高く、複雑になればなるほど、それらの手技をいかに完璧にできるかが問われます。したがって、時間短縮にはそれぞれの基本手技を確実にかつ迅速に行える技量を身につける必要があります。

基本手技がしっかりできるようになると、あとは同じ組み合わせを状況に合わせてやっていくだけ。気持ち的にはそれだけ楽にこなせるようになるわけです。基本的な手技をこなすことによって、一定の時間感覚が身についていくのです。