軍隊式の体育教育を続ける日本の異常さ

それもそのはず。日本の体育は、「軍事活用」されてきたからです。

たとえば、明治初期から「普通体操」に加えて「兵式体操」が学校ではじまりました。教師は軍人で、規律をもとめられ、私語はゆるさず……。また、1928年には「体育政策」もはじまります。何かというと、体育を通じて、富国強兵を目指す政策なんです。このときから始まったソフトボール投げは、手榴弾を投げる訓練だったし、懸垂なんかも歩兵銃を撃つための訓練。

戦争と伴走しながらうまれた日本の体育は、大戦後も生き残りました。効率と馬力とチームワークが求められる、高度経済成長期と相性がよかったからです。でも、それはもう昔の話。「体育」や「軍隊式」の教育や働き方は、耐用年数が過ぎていることを、平成の30年間が教えてくれました。だれがなんと言おうと、時代と合っていない。

だからこそぼくは、「ぼくが悪いんじゃなくて、スポーツ(体育)が悪いのかもしれない」という仮説をもちはじめました。

みんなが楽しめる「ゆるスポーツ」誕生

それを決定的なものにしたのは、息子の誕生です。彼には先天的に視覚障害があるのですが、そうすると今のスポーツだと楽しめるものがほとんどない。これって、やっぱり、スポーツの方が人を排除しすぎじゃない? と確信に変わりました。そして、もういっそ新しいスポーツを作ってしまおう! と決めたのです。

「今目の前にあるスポーツが絶対」という体育脳から、「ぼくたちに合う新しいスポーツを作ろう」へのシフトです。だって、そうでもしないと、とてもではないですが生きづらかったから。弱者の生存戦略です。

満を持して、2015年に「世界ゆるスポーツ協会」という団体を仲間たちと立ち上げました。「ゆるスポーツ」とは、運動が得意不得意にかかわらず、だれもが笑いながら楽しめるスポーツです。

これまで開発したスポーツは90競技以上。イモムシラグビー、ベビーバスケ、トントンボイス相撲。既成概念にとらわれず開発したスポーツは、これまで10万人以上が体験し、今では海外進出をしています。また、イベント後にアンケートを取るとほぼ100%の方が「楽しかった」「またやりたい」と答えます。今ではミズノといった大手スポーツメーカーとも連携しながら、新しいスポーツカルチャーをつくることに東奔西走する日々です。

写真=世界ゆるスポーツ協会提供
イモムシになりきって、行うラグビー。基本動作は、ほふく前進か、転がるか。
写真=世界ゆるスポーツ協会提供
ベビーバスケは、激しく扱うと泣き出してしまう特殊なボールを使ったバスケットボール。泣かせないようにそっとパス。プレーヤーの母性が勝敗を分ける。
写真=世界ゆるスポーツ協会提供
トントンボイス相撲は、トントンという声で紙相撲力士を戦わせるスポーツ。プレーヤーは自然と大きな声をたくさん出すので、喉の機能回復につながる。