新型コロナで広がった「自粛警察」の正体

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るったこの春、あちこちで「自粛警察」と呼ばれる一連の動きが活発になった。

たとえば、4月26日、東京・杉並区のライブバーでは、無観客でのライブをインターネットで配信したところ、店の出入り口に「自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」などと書かれた貼り紙が3枚貼り付けられた。

テレビで駐車場が満杯になったゴルフ場の様子が流されると、「営業するな」という苦情電話が殺到し、5月1日には日本ゴルフ協会などが報道の自粛を求める声明文を公表する事態になった。

このような状況はなぜ起きるのか? 現場の心療内科医の視点から、検討を加えてみたい。

警備員が手のひらをこちらに向け停止するようにサイン
写真=iStock.com/Paul Bradbury
※写真はイメージです

「社会正義」と「ゆがんだ正義感」

私は、2016年に『ゆがんだ正義感で他人を支配しようとする人』(講談社+α新書)を著し、過度な「正義感」の暴走に警鐘を鳴らした。今回の一連の事件も、このような「ゆがんだ正義感」のもたらす弊害の一つだと考えられる。

自分自身が「正しい」と感じる感情は、「自分を守るシステム」の中核として、2~3歳のころまでに形成されると考えられている。

同時に、しつけや教育を通して、私たちは自分が本当に正しいかどうかを振り返り、他者との会話を通してそれを検証すること、つまり「社会正義」を守ることを学んでゆく。社会のルールを守ることで、個人と共同体の利益を守ろうとするのである。

ところが、自分自身の正義感は往々にして、「自分の都合のよい方向」へとゆがんでしまいがちである。私たちはそれを正当化し、ゆがんだ正義感にしたがって行動する傾向があるのだ。