「俺たちは決まりを守っているのに」という心理
青森県で東京から帰省してきた身内がいる家に、「帰省をとがめるビラ」が投げ込まれる事件が発生しました。
「このコロナが流行している最中に帰省するとは何事か」と、近所に住むと思しき人からの訴えでした。緊急事態宣言期間中に営業をしていた飲食店に「自粛要請ビラ」を貼り付ける心理とまったく同じでありますなあ。マスクを着用していない人に対しても露骨に着用を促すように振る舞う人もいると巷間で噂になっています。
自粛警察、マスク警察と来て、いまや帰省警察の登場であります。
軋轢を威力的に加えようとするのですから、警察というよりも「ヤクザ」に近いと思いましたが、そうなると「警察もヤクザも案外近い距離のものではないか」という意外な真理めいたものも浮かび上がってくるのが面白いところです(笑)。
とにもかくにも半年以上この国を襲い続けているコロナはいろんなものを可視化させてくれているのかもしれません。
災害時の炊き出しにも列を乱さずきちんと並んで順番を乱さない日本人の道徳性は、海外からも称賛をうけるべき美点でもありますが、その裏腹となるのが以上のような「警察的言動」なのでしょう。
「俺たちは頑なに決まりを守っているのに」という思いが強くなりすぎると、一瞬でもその暗黙の了解を破っているように「見える(思える)」対象を許せなくなる心理に傾きがちになるものですもの。
そして、それらの立ち居振る舞いが積み重なったものが、リスクを完全に無くそうという「ゼロリスク信仰」を招いているのではと察します。
そうなんです、ゼロリスクという考え方は気象変動や地震などの自然災害がデフォルトのこの国に住み続けた日本人のDNAに刻み込まれた「生真面目さ」から発生しているものなのです。
だからこそ、「もしかしたら自分は間違っているのかも」という自己チェックが働かないのです。それゆえ厄介な心象風景なのですが、脳科学者の中野信子先生は「正義中毒」と見事に喝破しました。