リーダーと市民のあるべき関係とは
クオモ知事は、記者会見のせいで、だんだん全国区の人気が出てきた。ジョー・バイデン候補より、よっぽど大統領に適任だ、という声もちらほら出始めた。
そこで弟のクリス・クオモがCNNのニュース番組で中継がつながったチャンスに、兄のクオモ知事に突然こんな質問をした。「大統領選に出る気はあります?」。
打ち合わせなしだったのだろう。クオモ知事は、ハトが豆鉄砲をくらったような顔をして、一瞬黙り、でもすかさず答えた、「ノオ!」クリスはなお追い打ちをかける、「ほんとに?」答えはまたも「ノオ!」そして笑いながら、こうフォローした。「なかなかいいジャーナリストになったと思うよ」。クリス・クオモは、年の離れた弟なので、クオモ知事の前ではかたなしである。
クオモ知事は、雄弁家というのではない。理系っぽいスピーチで、余計なことや、もって回ったことは言わない。小学生でも理解できるような、わかりやすい英語を使う。アメリカは移民の国で、英語がよくできない市民がとても多い。民主党はとくに、そういう人びとに気を配っている。
クオモ知事のスピーチから、今のアメリカのあり方、現代世界の一端が見えてくる。日本人は、スピーチに関心がなさすぎる。これでは、ビジネスにも差し支える。
そこで、今夏、『パワースピーチ入門』(角川書店)という本を上梓した。コロナ危機があぶり出した、リーダーと市民のあるべき関係を考えた。どうか手に取って、パワースピーチのコツをわがものとしていただきたい。