※本稿は橋爪大三郎『パワースピーチ入門』(角川新書)の一部を再編集したものです。
全米の有名人になったクオモNY州知事
新型コロナウイルスによる混迷のさなか、アメリカで注目されたのが、ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏だ。クオモ知事は、1957年生まれの62歳。父もNY州知事で、民主党員である。弟のクリス・クオモは、CNNでニュース番組のアンカーを務めている。2020年3月初めにNY州の感染が始まるとすぐ記者会見を開き、テレビ中継された。以後毎日のように、記者会見を続けている。
このクオモ知事のスピーチが、評判になった。リーダーにはこういうことを語ってほしい、というツボを押さえている。聴いてみると、癖になる。NY州に限らず、全米の有名人になった。
日本にも、ちゃんと会見をする知事が何人か現れた。こっそりクオモ知事の会見を参考にしている、という説もある。
クオモNY州知事の伝え方とは
クオモ知事の会見は、事実→意見→討論(記者とのQ&A)、の順序で進む。その特徴は、事実/意見、がはっきり分かれていること。そして、意見の部分がよく練られていること、である。順番にみていこう。
事実/意見、を峻別する。古くからのテーマで、当たり前のようだが、現代的な意味がある。
フェイクニュースがはびこるようになった。マス・メディアに代わって、SNSが重要性を増していることと関係がある。
トランプ米大統領はずっとツイッターを駆使しており、フォロワーは何千万人にも及ぶ。新聞をとっていない。ネットワークのTVニュースも見ない。CNNがどんなにトランプを批判しても、有料で高いので、そもそもCNNを観ない人びとが多い。自分の好む情報にばかりアクセスし、なにが事実なのかの社会的合意が成り立たなくなる。フェイクニュースを信じるなと騒いでいる当人が、いちばんフェイクニュースを信じている、という現象が起こる。
こうした現象に立ち向かうため、クオモ知事は、事実/意見、を区別する原則に立ち戻る。
《あなたは、自分の意見があるでしょう。でも、自分だけの事実をもつことはできません。よね? あなたは自分の意見を持ちたいし、自分の意見を持っている。でも自分だけの事実をもつことはできないんです》(3月21日の記者会見)
たとえば、若いひとはコロナに罹らないからとコロナパーティーを開いたり、社会的距離をとらないでビーチに出かけたり。それは事実に反しますよ、とクオモ知事はたしなめる。