今までにない「複合危機」にどう対処したか

この9月から、わたしはプレジデントオンラインで、トヨタが危機に際して、どういった行動をとったかを詳細にリポートする。このリポートを読めばどこの会社の人間であれ、危機管理ができるようになるはずだ。会社を筋肉質に変え、売り上げを落とすことのない体質に作りかえることができるだろう。

タイトルは「トヨタの危機管理」。

わたしが本企画の取材を始めたのは中国・武漢が都市閉鎖された2020年1月23日だった。当初、その時期にわたしは広州のトヨタ工場を訪ねる予定にしていた。しかし、飛行機も飛ばなくなり、出張は断念した。だが、その時、トヨタは対策本部を立ち上げて、危機管理を始めていた。一報を聞いたわたしは、急遽、取材先を変えた。危機の時にトヨタが何をするのかを探求することにしたのである。

わたしはトヨタが震災やリーマン・ショックに際して危機管理を行ったことを知っていた。毎年やってくるようになった「50年に一度の」台風でも、迅速に対処していることも見ていた。

「彼らは新型コロナのような新しい形の複合危機にはどうやって、対処するのだろうか」

それを知るために、緊急事態宣言(4月7日から5月25日)が出るまでと解除された後、愛知県豊田市の本社をはじめとする各地で取材をした。ただし、本格的な取材は緊急事態宣言が解除され、都道府県間の移動が自由になった6月19日からだ。ソーシャルディスタンスを取りながら、マスクを着けて、社員に肉薄した結果が本企画、「トヨタの危機管理」である。

平時から体質改善を続けている

トヨタの危機管理にはいくつもの特徴がある。詳しくは連載のなかで紹介していくが、もっとも特徴的なのは、危機管理には平時の行いが反映されること。普段から危機に備えておけば、いざという時にあわてることはない。危機に直面した時にだけ泥縄式にやるのが危機管理ではない。

トヨタは平時からつねに体質改善を続けている。原価の低減と生産性の向上が習慣になっている。

こう書くと、「勤勉が第一」とか「毎日の勉強が成績向上の近道」みたいな優等生的、小市民的、教科書通りの道徳発言のように受け取られてしまうかもしれない。しかし、トヨタの経営者や危機管理チームの考え方は優等生的でも小市民的でもない。「仕事は楽しんでやらなければ身につかない」と信じている。

撮影=プレジデントオンライン編集部
トヨタ自動車の河合満氏。名刺には“おやじ”のみ記している

同社執行役員で「おやじ」の河合満は言う。

「楽をするためにカイゼンを考えればいい。そうすれば、毎日、カイゼンの知恵が出る。どちらかといえば横着なやつの方がカイゼンには向いているんだ」