豊田社長「トヨタは確実に強くなった」
「筋肉質になった」と自己評価しているのは河合だけではない。
社長の豊田章男はすでに同じ内容のことを6月の株主総会で語っている。
「これまで『体質強化は進んでいるのか?』という質問をいただく度に、私は、リーマン・ショックのような危機に再び直面した時にしか、その答えは出ないと思います、と申し上げてまいりました。
今回、リーマン・ショックを上回るコロナ危機が世界を襲いました。私が指示をしなくても、トヨタの現場はフェイスシールドの生産をはじめ、『人命第一』『安全第一』の優先順位に基づいて、即断即決即実行で動いてくれていました。だからこそ、決算発表においても、あくまでも見通しに過ぎませんが、トヨタは赤字には陥らないというメッセージとともに、世の中に対して一つの基準をお示しすることもできたと思っております。(略)トヨタは確実に強くなったと思います。そして、その強さを自分以外の誰かのために使いたいと思っております。なんといってもリーマン・ショック時よりも200万台以上、損益分岐点を下げることができたのですから」
危機の時こそ他者をたすけること
トヨタの危機管理は平時における原価低減と生産性向上だが、もうひとつ、他社に見られない特徴がある。それが社会への支援だ。これもまた平時から行っていることだが、危機が来ると、トヨタはさらに支援に力を入れる。
新型コロナ危機に際してはふたつの重点的支援を行っている。
ひとつは医療現場への支援だ。グループ会社も含め、マスク、フェイスシールドを自作した。さらに、医療用ガウンについては自社ではなく、地元の雨合羽の製造会社などが作り始めたと聞き、生産性向上のために人材を派遣した。
同社にはトヨタ生産方式という生産、物流、販売など各分野における生産性向上の手法と知恵がある。それを惜しげもなく提供して、取引先ではない会社を応援し、さらにはコロナ危機で売り上げを落とした企業の業績アップに貢献した。
もうひとつはトヨタ自体が仕事を継続することだ。自動車産業はすそ野が広く、波及効果も大きい。部品会社、その周りに位置するサービス産業、さらには地域の会社……。そうした人々の生活を守ることは社会への支援につながる。だから、トヨタは工場を稼働させ、国内で300万台を作る体制を変えなかった。