なぜ? 「危機管理では役員に報告しない」理由
新型コロナ危機に際して、トヨタはどこよりも早く危機管理本部を立ち上げ、集まってきた社員たちが情報収集に努め、早め早めに手を打った。彼らがやらないと決めたのは幹部への報告だけだ。
同社の危機管理では「役員には報告しない」となっている。事情が知りたい幹部は自ら足を運んで、危機管理本部へ行く。本部へ行けばリアルタイムの状況、情報、対策がひと目でわかるように、壁に貼りだしてある。これこそ「見える化」の真髄だ。
執行役員でチーフ・プロダクション・オフィサーの友山茂樹は言う。
「危機管理の担当が幹部に報告したり、報告書を書いたりする時間はもったいない。それよりも現場へ行き、対応に当たるのが仕事です。ただ、今回は現場へ行けなかったので、リモートを活用しましたが。うちでは社長自ら危機管理本部に来て、壁を見て、危機管理と対処の状況を確認することになっています」
確かに、大きな危機の時なのに役員室を回って、「今はこうなっております」といちいち報告して歩くのはバカばかしい。トヨタの社員はそういったムダな仕事はやらない。
多くの会社がトヨタの危機管理からもっとも見習うべきはこの点だ。ただし、「危機の時、役員に報告しない」ことを真似できるのは健全な会社、成長途上の会社だけだろう。年老いて官僚的になった組織は絶対に実行できないと思われる。
早めの準備で危機管理はスタートする
最後に付け加えると、彼らはつねに早め早めに手を打っている。
早めに危機を察知し、早めに動いたからこそ、中国マーケットが動き出したとたんに車を販売することができた。データを見ると、中国マーケットで売れているのは小型のカローラ、レビンだ。それはカーシェアからプライベートカーへ移り変わったユーザーの気持ちをつかむとともに、最新の情報をつかみ、フレキシブルな生産体制でマーケットの要求に応えたのである。
万事、早めに早めに動く。それを口癖にしていたのが『鬼平犯科帳』などで知られる天才、池波正太郎だった。
池波さんは毎年、春になると翌年に出す年賀状を書き始めた。万事、早め早めの人だった。
——会社で刷った年賀状にてめえの名前を書いて出すようなのは男じゃないんだよ。
トヨタの危機管理は池波さんの年賀状のようなもので、早め早めの準備からスタートする。そして、危機の最中だからと言って、自分の都合ばかり考えない。これまで縁のなかった、取引先でもない会社のために支援の人材を出す。
それがトヨタの危機管理だ。