ベテラン議員と若手議員の軋轢

このルールは、2003年に小泉純一郎元総理が厳格に適用することを決定した。当時、いずれも80代だった大物政治家である中曽根康弘、宮沢喜一両元首相をも例外とせず、この定年制を適用し、引退を迫ったことは有名である。

この「73歳定年制」は、選挙が近づくたびに若手とベテランの間の軋轢をもたらしてきた。今回、これに異議を申し立てたのが、衛藤征士郎元衆院副議長と平沢勝栄広報本部長である。両議員とも70歳を超えるベテランだ。両議員は二階俊博幹事長や下村博文選挙対策委員長と面会し、「73歳定年制」の廃止を直訴したという。

衛藤議員は、毎日新聞(2020年7月1日)の取材に対し、「豊かな日本しか知らない議員だけではなく、厳しい時を体験している議員がいることは貴重だ。同じ党内で役割分担ができた中選挙区と異なり、小選挙区では議員はあらゆる分野について知っていることを求められる。地域の声をしっかり国会に届ける意味でも長い経験を持った議員は必要だ」と答えている。衛藤議員らから「定年制廃止」の要請を受けた二階幹事長も「当然じゃないか」と応じたと報道されている。

一方、若手は当然反対だ。45歳以下の国会議員や地方議員で構成される「青年局」は、この「定年制廃止」の問題提起にいち早く反応し、「73歳定年制」の維持を下村選対委員長に申し入れた。

小林史明青年局長や元局長の小泉進次郎環境大臣は、小選挙区には定年はないのだから、比例代表で重複立候補をすることに固執せず小選挙区で立候補すればよい、比例枠は女性や技術に精通した専門的な知識を持つ議員を増やすことに利用したほうが党にとってメリットが大きい、と強調した。

国会議員の高齢化がもたらす若い世代への不利益

定年制は、二階幹事長が指摘するように「当然」撤回するべきルールなのだろうか。確かに、政府自身が「人生100年時代」という今日、年齢によらず高齢者が意欲を持って働くことのできる社会にしていくべきだろう。

しかし、ここまでに行われた議論は、いずれも、自民党やそこに所属する議員にとってどのようなメリットがあるかという観点で行われており、私たち国民にどのような影響があるのかははっきりしない。

日本では、国・地方によらず議員の平均年齢は国民全体の平均年齢よりも高い。そのため、高齢の政治家が可決した法律で、若い世代の利益が損なわれる可能性はないのかという点も気になる。

ずいぶんと前置きが長くなったが、この点を考える判断の根拠となる研究を紹介するのが今回の記事の目的である。