市長選挙5770回のデータから見えてきたこと

それは、ハーバード大学のチャールズ・マクリーン研究員が、2004年から2017年までの間に日本で収集した、5770回の選挙に出馬した計1万人以上の基礎自治体の市長候補者のデータを用いて行った最近の研究である。

国会議員を対象にした研究ではないものの、この研究の含意は今回の問題を考える上で有用である。そもそも議員の年齢に着目した研究はいまだほとんど存在しない中、この研究は、「回帰不連続デザイン」という統計的な手法を用いて、市長に当選した候補者の「年齢」が、自治体の「支出」にどのような影響をもたらすかを厳密に分析している点で優れている。

自治体の首長の年齢は無作為に決まっているわけではない。高齢の首長の人気がある自治体と、若年の首長の人気がある自治体では、住民の構成が異なっていると考えるのが妥当だろう。このような場合、それぞれの自治体の差が、首長の年齢の違いからくるものなのか、それともその自治体の住民の違いからくるものなのかと区別することが難しい(専門用語ではセレクション・バイアスが存在するという)。

こうしたバイアスを除去するために、選挙で、若年候補者がほんの僅差でギリギリ高齢候補者に勝利したというケースに着目することで、偶然、高齢の市長に代わって若い市長が選出されたことの効果を推定しようとしたのである。

若いリーダーは子どもたちの教育と福祉を優先する

この結果、明らかになったことは以下の通りである。

まず、第1に、45歳以下の若年市長は、子供の教育や福祉に対する支出を大きく増加させる。図表1(a)と(b)をみてみよう。これは、縦軸が(a)が子供の教育や福祉に対する支出の変化、(b)が高齢者の医療や介護に対する支出の変化をあらわす。横軸は45歳以下の市長候補と高齢の対立候補の得票差を示しており、0のところで当選が決まる。

(a)を見ると、45歳以下の若年候補が、ほんの僅差でギリギリ高齢の対立候補に勝利した時、その自治体の子供向けの教育や福祉への支出は増加する。具体的には、支出は7~14ポイントも増加し、金額にすると15歳以下の子供1人当たりの支出が356ドル(約4万円)増加するという。

(b)をみると、高齢者向けの医療や介護に対する支出は0~7ポイント減少している。ただし、この差は統計的に有意ではなく、45歳以下の候補者が僅差でギリギリ当選すると、高齢者向けの支出がカットされるというエビデンスは確たるものではない。しかし、高齢者よりも子供が優先されていると言ってよいだろう。

Younger Mayors Increase Spending on Child Welfare