日本は未来に賭けられる国になっていない

第2に、45歳以下の市長は、子供の教育や福祉に対する短期的な再分配ではなく、より長期的な「投資」を行っている。図表2(a)と(b)をみてみよう。(a)は、子供向けの支出のうち、(児童扶養手当などの)短期的な控除や給付額の変化、(b)は(保育所の建設などの)長期的な投資額の変化を見ている。これをみると、45歳以下の候補者が僅差でギリギリ当選しても、短期的な控除や給付は増えないが、長期的な投資が増加する。

Younger Mayors Invest More in Child Welfare

なお、若年と高齢候補者が僅差の選挙戦を行った自治体に注目するという分析のデザイン上、若年(あるいは高齢)の候補者同士の場合にどうなったのかは分からない。したがって、首長の絶対年齢さえ若ければこのような傾向が表れる、とまではいえない点は留意が必要だ。

日本では、社会保障には世代間の対立した需要がある。つまり、高齢化が進む中で高齢者向けの医療費や介護に使うべきか、少子化が進む中で子供向けの教育費や少子化対策に使うべきか。こうした中で、政治家の「年齢」が社会保障の資源配分に大きな影響を与える可能性があるということは重要な発見である。

医療費の60%以上は65歳以上で発生し、国全体の総額は年間43兆円を超えている。65歳以上の高齢者人口が全体の3分の1になると予測される2025年には、医療費は60兆円に達するとの推計もある。一方、科学技術や子どもの教育に割り当てられる文教予算はたったの5兆円ほど。GDP対比でみた公教育への支出額は、先進国の中でも最低水準となっている。

慶應義塾大学の安宅和人教授は、話題の新著『シン・ニホン:AI×データ時代における日本の再生と人材育成』の中で、次のように述べている。

「お金はあるのだ。むしろリソース配分の問題であり、未来に賭けられる国になっていないだけなのだ」(P315)