日本酒といえば「獺祭」と答えるニューヨーカー
2007年頃だったと記憶していますが、ちょうど取材のためニューヨークに滞在している最中に、私の知り合いから「ニューヨークにいらっしゃるなら、ぜひ講演を!」という話をいただきました。「日本の若い経営者たちが大勢、勉強しに来ているから……」と言われるので、それならと喜んで引き受けました。その講演会に、桜井博志さんの御子息・一宏さんが参加されていたのです。
ニューヨークでの私の講演が終わったあと、一宏さんが駆け寄ってきてくれました。名刺を拝見すると「旭酒造」。私の郷里と同じ山口県岩国市に酒蔵があると言います。
「獺祭」という日本酒が海外で評判になっている話は、現地の知り合いからも耳に入っていました。一宏さんと出会ったニューヨークでも、日本酒といえば「獺祭」と答えるニューヨーカーが当時からたくさんいました。
一宏さんが異国の地で年間の約半分を過ごしながら、自分たちが造る日本の酒を広めていたことを話から知りました。言葉も文化も違う海外に単身で乗り込み、コツコツと積み上げるようにして認知されてきたとの彼の話に、私は同郷ということもあって大変感銘を受けました。
日本に帰ってきてから、ある企業の常務に食事に誘われたのですが、当時、旭酒造の代表取締役社長だった桜井博志さんもいらっしゃるということで、楽しみにして行きました。そのときが初対面だったのですが、すでに一宏さんとお会いしていたこともあったので、話は弾みました。
負け戦も、ただでは負けない男気
今でこそ山口県岩国市ですが、2006年に玖珂町や本郷村、周東町など8つの市町村が合併してひとつの市が誕生しました。桜井さんたちの旭酒造は周東町にあって、私の出身地とは少し離れていましたので、同郷というよりは、近くの造り酒屋のイメージが強かったのが正直なところです。岩国だと「五橋」や「金冠黒松」「雁木」「金雀」など地元の銘酒が占めていますので、私自身も、旭富士や獺祭は聞いたことのある程度だったのです。
博志さんとお会いして、酒造りの話もさることながら、その人柄に好感を持ちました。頑固で芯があるのですが、どこか私に似ていて、早とちりでせっかち。失敗もたくさんされていて、それを隠すことなく話される。地ビールでの失敗談などは、漫画にも描いた通りです。
ところが、ちゃんと失敗も次の策へとつなげている点が博志さんの凄いところです。負け戦も、ただでは負けない。そういった男気が、業界内では競争しない、仲良しクラブみたいな付き合い方もしない、同業者の足の引っ張り合いにも参加しない、安易に昨日と同じことをやろうとはしないなど、経営方針にも反映されていると思います。年齢でいうと私と3歳しか違わない、ほぼ同世代なことにも親近感が湧きました。今では、年に5~6回、時間を合わせて会食を楽しんでいます。