大人でも学習によって脳の体積が増える
さまざまな脳研究の成果により、脳を使うことで神経細胞のネットワークが密になるだけでなく、特定の領域では神経細胞そのものの数も増えることがわかってきました。その領域というのが、海馬という重要な器官です。前の項では、脳の神経細胞について、「一部を除いて生まれてから増えることがありません」と書きましたが、その「一部」にあたるのが、この海馬のことです。
海馬というのはおかしな名前に聞こえますが、そのまま英語にすると「sea horse」で、これは海に棲むタツノオトシゴのことです。海馬の形が、タツノオトシゴに似ていることから、こう名付けられたのです。
海馬の機能は記憶と深く関係しており、外から入ってきた情報を一時的に記憶すると同時に、その記憶を残しておいたほうがよいか、消してもよいかを判断する働きをします。つまり、記憶を整理するわけです。
この海馬の神経細胞が、学習をすることによって大人になっても増えていくということは、1998年にアメリカの研究チームによって明らかにされました。
それだけではありません。21世紀に入ると、学習によって大人でも脳の体積が増えるということがわかってきたのです。それまで、脳は青年期になっていったん完成すると、海馬以外の部分は形が変化しないといわれてきました。変わるとしても、加齢や病気で萎縮した場合だけと考えられてきたのです。
50歳からでも、英語を話せるようになる
ところが、大人になってからも学習を続けていけば、神経細胞同士をつなぐ回路が密になって、脳の体積を増やし、さまざまな能力を獲得することができると示されたのです。このように外部からの刺激や作用で、脳の体積や脳回路が変化することを脳の「可塑性」(plasticity)と呼んでいます。
海馬の中で新たに神経細胞がつくられていることに加え、脳に可塑性が備わっているということは、何歳からでも努力をすれば、どんどん伸びる可能性があることを示しています。大人になって英語を学び直そうとしている私たちにとって、大きく勇気づけられる事実ではありませんか。
もちろん、脳の可塑性は子どものころのほうが高いのは確かです。英語の学習や楽器の演奏をみれば、幼児期に学べば、伸びが早いということはどなたもおわかりでしょう。
では、30歳、50歳、80歳では手遅れかといえば、そんなことはまったくありません。それぞれの年齢相応に脳の可塑性があるからです。
30歳でも50歳でも、それなりに頑張れば、英語を必ず自分のものにできます。80歳であっても、本気で頑張れば十分に身につけることができるのです。
もしあなたが、プロのピアニストになりたいとか、ネイティブとまったく同様に英語をしゃべりたいというのならば、それは少し難しいかもしれません。でも、セミプロ級のピアニストになることは可能ですし、英語で外国人とコミュニケーションをとることは間違いなくできるようになります。