利得追及が常に認められるわけではない
マスクの高額転売は、一部の人間による資源などの独占・集中が起きているとも言い換えられる。それは、社会により豊富な消費の選択肢や機会を提供するというITプラットフォーマーの社会的責任や役割から逸脱しているといわざるを得ない。
自由な取引という経済原則を盾に取った利得追及が常に認められるわけではない。行き過ぎた利得追及によって社会的な弊害が生じる展開は、事業の運営主、あるいは公的な機関が止めなければならない。政府が取得した価格以上の値段でマスクの転売を禁止したのは当然だ。マスクの抱き合わせ販売に関しても、公正取引委員会が独占禁止法に違反する恐れがあると指摘している。
やや気になるのは、ITプラットフォーマーがこうした常識と良識にもとづいた事業運営をどこまで徹底しようとしてきたかだ。マスクの高額転売が問題視される前にも、ネット上のフリーマーケットなどで取引されてきたモノやコトの中には常識的に考えておかしい、問題があると指摘されるものがあった。
夏休みの宿題を代行するサービスの出品も
たとえば、一部のプラットフォーマーでは、小学校の夏休みの宿題を代行するサービスなどが出品されたことがある。夏休みの宿題は、児童一人ひとりが自分の力で成し遂げることに意義がある。スキルのシェア、購入した商品の配送や品質などを巡ってトラブルに発展したケースもあると聞く。それらは常識と良識に照らしておかしい。
また、換金を目的にしたと思しき現金や偽ブランドの出品なども行われていた。これは法令違反だ。ITプラットフォーマーはそうした取引をなくすために人海戦術で対応してきたが、未だ取り組むべき課題は多いようだ。
ITプラットフォーマーはビジネスモデルを支える基本的な価値観に立ち返る必要があるだろう。新型肺炎の発生によって日常生活に不安を募らせる人は増えている。群集心理に付け入るようにして特定の個人が利得追及に走る状況は公共の福祉に反している。こうした問題はテクノロジーの活用以前の経営理念に関する論点だ。
各社は、人々が公平に、安心して利用できるオンライン上のフリーマーケット、あるいはオークション空間を確立しなければならない。システムでの対応が難しいのであれば、取引をモニターする人員を増員するなどの対策が求められる。そうした取り組みを重ねることが、企業が社会からの信頼感を得ることにつながる。