自分が見ているものは本当にそこにあるか

ドラッカーはまた、「最初から事実を探すことは好ましいことではない。すでに決めている結論を裏づける事実を探すだけになる。見つけたい事実を探せない者はいない」とも言っています(『経営者の条件』)。

人は自分が見たいものを見ようとします。その「ものの見方」は、それぞれの経験や価値観、過去に蓄えた知識や個々の嗜好によって自動的に決まります。人は自分自身のフィルターを通して物事を見て、それを現実として捉えます。しかしその現実は、その人の期待や値判断、思い込み、バイアス、身体感覚、感情など、多くの要素が複雑に絡み合った結果映し出されたものなのです。そしてほとんどの人は、自分にフィルターがあることすら意識していません。

セルフマネジメントを学ぶ目的は、自分のフィルターを外し、オプションを増やし、よりよい結果を得ることです。

自分の内面を理解し、自分自身をマネジメントできるようになって初めて、他者に影響力が発揮できるようになります。

しかし、わたしたちはしばしば、この順序を逆にしがちです。自分の内面に目を向けるのではなく、いきなり自分以外の誰かや何かを変えようとしてしまうのです。

学校教育においても社会人になってからも「自分はいま何を感じているのか(感情)」や「自分の身体にどんな感覚があるのか(身体感覚)」という、生きるうえで重要な問いと向き合う機会はほとんどありません。

願望や感情を起点に行動する

自分の考えていることはなんとなくわかるけれど、その奥にある感情や感覚に気づかないままやみくもに行動していると、その行動の結果についての評価もできません。頑張っているのに結果に結びつかない人は、そもそも「どういう結果を目指しているのか」を自分自身がわかっていなかったりします。

かといって、自分のことだけに集中して周りの人・環境・組織に目を向けなければ成果を出すことはできません。自分を取り囲むほかの人の存在もあってこそ、望む結果が出せるのです。ネットワークモデルの時代においては、ひとりで完結する仕事などほとんどありません。つまり、自分に向き合って瞑想していれば世界が救われるというような、単純な話ではないのです。

自己の内面を見つめ、自分の感情や願望を知り、そのうえで外側の世界に働きかけ、よりよい結果に近づけていくこと、これがセルフマネジメントです[図表1]。

セルフマネジメントができるようになると、チームや組織(企業やNPO、地方自治体や行政など)のマネジメントで成果を出せる可能性が高まります。その先に社会のイノベーョンがあります。自分が望む社会を実現するために、権力やパワーで強引に変化させようとたり、社会システムそのものを無理にコントロールしたりしてもうまくいきません。それよりも「わたしはどんな社会を望んでいるのか」「どんな社会であれば幸せを感じるのか」という自分自身の願望や感情を起点に行動し、周囲に影響を及ぼしていくことで少しずつ社会は変わっていくのです。