「国民的なITサービス」どうしの統合だが……
両社は対等合併であることを強調しており、統合後のZHDのトップには、ヤフーの川邊健太郎社長とLINEの出澤剛社長が、それぞれ共同CEO(最高経営責任者)に就任することが決まっている。だがヤフーの背後には、巨大なソフトバンクグループが控えているという現実を考えると、この経営統合はソフトバンクグループによるLINEの取り込みと考えた方がよいだろう。
ヤフーは6743万人の月間利用者を抱える日本最大のポータルサイトであり、同時にヤフーショッピングやヤフオクといったEC事業も展開している。一方、LINEの月間利用者は8200万人となっており、こちらも国民的なITサービスといってよい。
両社の顧客にはかなりの重複があるが、利用者数を単純に合算すれば、日本の人口を大きく上回ることになり、今回の経営統合によってソフトバンクグループはまさに1億人経済圏を獲得できる。
なぜ孫正義氏はこれほどまでに事を急ぐのか?
ここ1年、ソフトバンクグループはヤフーを通じて国内ネット企業の獲得に邁進している。
2019年8月には子会社であるアスクルのトップを解任するなど経営関与を強化し、翌月にはファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するゾゾの買収を決めた。そこから時間を置くことなく、今度はLINEとの経営統合を実現している。
ソフトバンクグループを支配する孫正義会長は、電光石火のM&A(合併・買収)を得意としてきたが、買収のスピード感はさらに高まっていると見てよいだろう。では、孫氏はなぜこれほどまでに事を急いでいるのだろうか。もっとも大きな理由は、孫氏が進めるネット企業への投資戦略に、とうとう成長の限界が見え始めたからである。
これまで孫氏は、成長企業に対する数多くの投資を行ってきたが、ここ数年は、10兆円の規模を持つソフトバンク・ビジョン・ファンドを立ち上げるなど、ネット企業への投資をさらに加速している。孫氏が企業買収に貪欲なのは、買収を通じて「時間」を買うためである。
ネットビジネスは従来型産業とは大きく異なり、成長に必要な限界コストが圧倒的に安く、業績が急拡大しやすい構造になっている。しかも、サービスを利用する人が増えれば増えるほど、その価値が高まるというネットワーク外部性という効果もあり、一定のシェアを超えると加速度的に利用者が増加する。