想定外の追加投資に悩まされるリスクも
重複分野の整理もかなりの困難が予想される。
スマホ決済については、市場が生まれたばかりであり、先行するPayPayとLINE Payが組むメリットは大きいだろう。ヤフ-は、すでに社会インフラとして定着しているジャパンネット銀行を擁しており、金融はこれからというLINEとの間に面倒な重複は発生しない。むしろLINEは人工知能を使った金融サービスの開発に力を入れているので、両者は相互補完できるかもしれない。
だが、ECやメディア、旅行などの分野については、かなりの重複が存在し、サービスの統廃合や利用者のポイント共通化といった作業が残されており、想定外の追加投資に悩まされるリスクもある。
アマゾンと比べてあまりにも貧弱な物流網
さらに言うと、アスクルとのサービス連携にも大きな課題がある。
現時点において、国内ネット通販の取扱高は楽天が首位となっており、ヤフーがこれを追う図式になっている。だが、楽天とヤフーは、商品のほとんどが出店者による販売・配送であり、楽天とヤフーは出店料を受け取るだけである。一方、アマゾンは多くの商品を自社販売しており、独自配送網の拡充や置き配など、革新的なオペレーションを次々と繰り出している。
商品の販売を出店者に任せている楽天とヤフーは、取扱高こそアマゾンよりも多いものの、サービス品質という点でアマゾンに大きく後れを取っている。ヤフーがアマゾンに対抗するためには、独自の物流網整備が不可欠であり、これが実現できないと、せっかく買収したゾゾの潜在力も100%発揮させることはできないだろう。
孫正義氏は「虚業」批判を跳ね返せるか?
こうした事情もあり、ヤフーはアスクルが保有する個人向けネット通販「LOHACO(ロハコ)」事業の取り込みを狙っていたが、これが一部のアスクル経営者と対立を生み出し、経営介入強化のきっかけとなった。アスクルの独自物流網はアマゾンと比較すると貧弱な状況であり、アスクルの経営正常化と本格的な物流網の整備にはかなりの紆余曲折が予想される。
企業買収ばかり繰り返す孫氏に対しては、常に「虚業ではないか」との批判が寄せられてきたが、ネット経済が成長の限界を迎えたことで、時間を買う買収はそろそろ打ち止めとなる。事業家としての孫氏の真価がいよいよ問われることになるだろう。