人が集まる場所はメディアである
G1サミットの事務局を10年近く務めて、2017年に面白法人カヤックに転職しました。そこで立ち上げに関わった「まちの社員食堂」は、30数席の飲食店。カヤックの本社がある鎌倉という地域全体で社員食堂をシェアしようというコンセプトでつくったものです。
ふつう、社員食堂といえば自社の社員のために食事を提供するものですが、ここは会社の壁を越えて「鎌倉で働く人たち」に開放されています。鎌倉の45のお店が週替わりでランチとディナーにお料理を提供いただいています。
300人超えの規模のG1サミットと30数席のまちの社員食堂。世界や日本のリーダーとなるパワーピープルと鎌倉という地域で働く会社員。規模も集まる人の属性も大きく違いますが、本質的な構造の部分は同じです。それはつまり、集まる場所がメディアになるという感覚です。
ある場所に集まってくる人たちがいる。そこでさまざまな意見や情報が発信されて、議論が起こる。そこから行動変容が生まれる。一連のプロセスが強力なコンテンツになります。つまり、集いそのものが情報を発信する「メディア」なんです。
メディアであるための要件として大切なのは、まずはリアルな場所であるということ。実際に人が集まって、そこでなんらかの行動があることがとても重要です。
また、集まる人々の属性が多様であることも必要です。自分とはバックグラウンドが違う人たちが集まることで、創発的な出会いが生まれます。互いに自分が専門とする知恵を教え合ったりインスパイアされ合ったりということが可能になるわけです。
縦割りではなく、混じり合う場である。混じることで新たなものが生まれる。これは、G1サミットとまちの食堂の両方に共通しています。
ビフォアとアフターで世界をどう変えたいのか?
G1サミットの事務局を担当することになって試行錯誤のなかで大いに参考にしたのは、商業ビルのプロデューサーが書いた一冊の書籍でした。都心に新しくできた商業ビルの空間をどうつくりこんでいったのか。そのベースには、明確な「コンセプト」がありました。
次々と新しい商業ビルがオープンするなかでは、目新しいまっさらなテナントだけでビルを埋めることはできません。日本初進出といった目玉テナントがいくつかあっても、それ以外は見慣れた店で構成することになります。
そのときに重要なのが「こういう世界観をつくる」という独自のコンセプトです。一つひとつのパーツはどこにでもあるものですが、キャスティングのやり方次第で結果として唯一無二のものが出来上がるのです。
編集者が書いた本などもたくさん読みました。そこから「どんな世界観をつくりたいのか」が明確であることの大切さを学びました。世界観というのは別の言葉で言えば、「ビフォアとアフターで世界をどう変えたいのか?」ということです。
この「集い」の前と後で、どんな変化が起こるのか。どんな変化を起こしたくて集いを企画しているのか。それが、コンセプトになります。このコンセプトが明確ではない集いは、「やりました、終わりました」というだけになってしまいます。
コンセプトは集いの運営の最初から最後までを貫き通す魂ですから、明確に言語化して伝えられるようにしておくことが必要です。コンセプトがしっかりしていれば、会は自然に良い方向に向かって動き出します。あいまいなコンセプトから素晴らしい体験が生まれることはないんです。