正反対の要求を一度にかなえる方法はある
ウィンルーズの状況を目指して攻撃的な交渉をしても、結局交渉は成功しない。相手に嫌悪感や拒絶感をもたれてしまうからだ。攻撃的な交渉をする人が相手の合意を取りつけられる確率は、平均すると、相手に協力姿勢を見せながら交渉をする人の半分程度だ。そのうえ合意の内容は、想定できる最高の合意内容とくらべると、半分ほどの利益しかもたらさない。
つまり攻撃的な交渉をすると、得られる成果は、最高の成果を得られた場合よりも75パーセントも減少することになる。
ではどうするのが一番いいのだろう? 先のエピソードでは、男たちの窓の開け閉めに関する立場は違ったが、司書の女性は両者の目的を突き止めるために、それぞれに窓の開け閉めをしたい理由は何かを尋ねた。その結果どうなったかは、ご覧のとおりだ。
正反対の立場をとる両者の関心事を、一度に満たす解決法はある。双方が利益を得られる「ウィンウィン」の結果を導き出すには、まず、交渉相手の関心事を突き止めなくてはならないのである。
もし行きたい旅行先がバラバラだったら?
ウィンウィンという言葉を耳にする機会は非常に多いが、言葉の意味をきちんと理解できている人は非常に少ない。ほとんどの人は、ウィンウィンというのは異なるふたつの立場の中間点を探ること、つまり、妥協することだと考えている。
けれども、ためしに次のような状況を想像してみてほしい。あなたは夫とインドへ旅行に行きたいと思っているが、夫はドバイのほうがいいと言う。どうしても意見が一致しないため、あなたはコンパスと三角定規をもってきて、ふたつのちょうど中間に位置する国を突き止めることにする。中間地点は、アフガニスタンだ。
だが実際にカブールの空港に着き、ブルカ(イスラム教徒の女性がかぶるベール)をかぶったとたん、おそらくあなたの頭のなかは、妥協するのが本当に最良の解決法だったのだろうかという疑問でいっぱいになるだろう。
妥協は結局、双方とも結果に満足できない「ルーズルーズ」の状況しか生み出さないのだ。どちらも本当に望んでいたことの一部をあきらめなくてはならないからだ。とくに、交渉相手が自分にとって大事な人である場合、その人のためを思ってすぐに妥協をしてしまいがちだ。