恋人が相手だと「本当の関心事」が見えにくい

心理学者たちが、カップル間の交渉を他人同士の交渉と比較する実験を行ったことがある。参加者は全員、同一の交渉シミュレーションを行うよう求められたが、カップル間の交渉では、他人同士の交渉よりも互いに対する気づかいが見られ、双方が控えめな最初のオファーを出したあと、比較的早い段階でどちらも互いに歩み寄る様子を見せはじめたという。

つまりカップルのあいだでは、他人同士の場合よりも、相手の本当の関心事を突き止めるのは難しいということになる。

調和を乱したくないという思いから、私たちは妥協して争いを未然にふせごうとする。「喧嘩するくらいなら、去年行った旅行先にまた行こうか。あそこならみんな気に入ってたしね」。子供のころから家族のそういう会話を聞いているうちに、私たちは自然に、ことを荒だてないよう人に歩み寄ることをおぼえていく。

しかし、妥協の前提となっている、互いの関心事はまったく相いれないものだという考え方自体がそもそも間違っているのだ。人間一人ひとり、求めるものが違うのは紛れもない事実だが、その要求がどんな関心事にもとづいたものかが把握できれば、両者が満足できるウィンウィンの結果を導き出すことはできるのである。

まったく違う希望を交換するのもいい

ビジネスだけでなくプライベートな場面でも、両者の違いが交渉のポイントであることに変わりはない。

大学を卒業したばかりの若いカップルがいたとする。男性にはハンブルク〔ドイツ北部〕での仕事のオファーがあり、女性はミュンヘン〔ドイツ南部〕での仕事のオファーを受けている。こういう場合ポイントになるのは、二人が働きたいと思っている理由や、二人とも同じくらい働くことを重視しているかどうかである。

実際にこのたとえと同じような状況に置かれたあるカップルは、男性がオファーをあきらめて、女性が仕事のオファーを受けた場所に2人で引っ越した。そのかわり結婚式と新婚旅行は男性の希望どおりにし、その後10年間、2人で旅行するときの行き先は男性が決めることになったという。

意図的にまったく違うものを交換するこうした方法は、「包括的な補償」と呼ばれている。この方法は、日常生活においてもこんなふうに活用できる。「この夏フランスに旅行するのはかまわないけど、そのかわり新しい車は僕の好きなものを選んでいいよね?」

信頼関係があると使える「ログローリング」

あなたと交渉相手のあいだに一定の信頼関係がある場合は、「ログローリング」と呼ばれる手法を使ってもいい。

双方が、自分にとって特に重要度の高い点とあまり重要度の高くない点を挙げて、互いの利害をひとつの解決策に収束させていく方法である。双方が自分にとって重要度の高い点ではほんの少しだけ譲歩し、重要度の低い点では大きく譲歩するのだ。