相手と意見が割れたとき、落としどころを見つけるにはどうすればいいか。ミュンヘン・ビジネススクールのジャック・ナシャー教授は「お互いの要求について重要度を3段階に分ける。低いものは譲り、高い要求を満たすための交換材料にすればよい」と指摘する――。

※本稿は、ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)の一部を再編集したものです。

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絶対に窓を開けたい人vs.絶対に窓を閉めたい人

図書館に2人の男がすわっている。1人が窓を開けると、もう1人がその窓を閉める。窓を開けたほうがもう一度窓を開けると、もう1人がまた窓を閉め、それを繰り返しているうちに、2人の男はとうとう部屋中に響きわたるほどの激しい口論をはじめ、司書の女性が駆けつけて来る。

女性が窓を開けたほうの男に「どうして窓を開けたいのですか?」と尋ねると、男は「空気の入れ替えをしたいからですよ」と答える。もう1人の男に窓を閉める理由を尋ねると、こちらの男は「すきま風が入って寒いんです」と答える。そこで司書の女性は隣の部屋に行き、そちらの部屋の窓を開ける――それで問題は一気に解決した。

このエピソードは、交渉の際に陥りがちな思考の落とし穴をよくあらわしている。私たちは相手の動機を究明しようとせずに、窓の開け閉めをすることだけに意識を集中させてしまうのだ。

その結果として生じるのは、勝つか負けるかの「ウィンルーズ」の状況である。窓が開いたままになれば、窓を開けようとしていたほうが勝者になり、窓が閉まったままになれば、もう1人のほうが勝者になる。その場合、双方のあいだにネガティブな感情が生まれるのは避けられず、ことによってはそれをきっかけに関係が破綻してしまうかもしれない。