欲しいものを買うときに、値段交渉に持ち込む人がいる。ミュンヘン・ビジネススクールのジャック・ナシャー教授は「お金だけにこだわっていては相手と合意できない。プラン内容やサービスを充実させれば、予算以上の価値が得られる」と指摘する――。

※本稿は、ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)の一部を再編集したものです。

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多くの人が「価格にこだわる」間違いを犯している

交渉のときは、ほとんど誰もがお金にこだわる。買い手はできるだけ安く買おうとするし、売り手はできるだけ高く売ろうとする。

だが、価格にこだわることこそが、交渉において多くの人が犯しがちな間違いだ。価格だけにこだわると、交渉の対象になりえる選択肢を、自ら狭めてしまうことになる。

「大筋では合意できましたから、後は価格面だけですね」といった交渉の進め方をすると、合意はまず見えてこない。なぜなら価格以外のものごとが、すべて交渉の選択肢から排除されてしまうからだ。交渉のポイントがひとつに絞り込まれてしまうと、状況は綱引きと同じになる。どちらか一方が得をすれば、もう一方はそれと同じ分だけ損をする。

だが交渉の対象になりえるポイントをできるだけ多く見つけて、交渉の選択肢として残しておけば、こうした事態は避けられる。

家を買うときも、価格だけに固執する必要はない。家具つきかどうかという点から入居日や支払い方法まで、交渉のポイントはほかにいくらでも見つけられる。交渉相手から売却手数料として1000ユーロ請求されたら、こんなふうに言えばいい。「2000ユーロでも5000ユーロでも喜んでお支払いしますよ」「なんですって?」「あなたの権限でどのくらい便宜を図ってもらえるのか、あらいざらい教えてもらえるならね」