だができれば、あなたの希望どおりの価格を顧客に支払ってもらうに越したことはない。予算などのやむをえない理由以外で顧客から値下げを求められたときは、あなたの提示価格が妥当だと思ってもらえるように、顧客の状況に合わせてパッケージの価値を引き上げるという方法もある。「私どものプロジェクターをご購入いただくと、寿命4500時間の電球を3つおつけします。他社の製品をお買いになった場合は、ついてくる電球はひとつだけです」

価格だけに焦点を合わせた交渉の末路

あなたが弁護士で、設定している報酬の料金について交渉可能かどうか訊かれたときには、こんなふうに答えよう。「私の設定料金にご納得いただけるような、建設的な提案があればいつでも検討させていただきます」。そしてあなたの設定した額の報酬の支払いを承諾してもらえるよう、相手があなたに求めていることを詳細に尋ねるようにするといい。価格を下げなくても、オファーの価値を充実させれば、交渉を成立させることはできるのである。

高速道路をミュンヘンからシュトゥットガルトあたりまで運転すると、価格だけに焦点を合わせた交渉の弊害が見てとれる。高速道路の工事現場だ。終わるまでに何年もかかるうえに、なかにはプラスチックの三角コーンと簡易トイレが置かれているだけで、ほとんど手がつけられていない場所もある。競争入札の際、役所が、価格本位で業者を選ぶよう義務づけられていることが原因だ。

違法にならない程度にもっとも安い入札価格を提示した業者と契約を結ばなければならないため、作業員の労働時間が極端に短いのだ。基準になるのは価格だけで、工事をしているあいだの道路の使い勝手はまったく考慮されていない。その結果として引き起こされている状況は、悲惨としか言いようがない。

価格競争は「ルーズルーズ」しか生み出さない

価格だけに意識を集中させることで得をする人は誰もいない。経済学者は誰も利益を得られない状況を「逆選択」と呼んでいる。

売り手と買い手がもつ情報量に格差がある場合に生じる状況で、情報をもつ売り手側はもたない側の無知につけこんで劣悪なサービスを提供しようとし、情報をもたない買い手側は情報をもつ側が提供するサービスに対して悲観的な予想をたてるため、実際は高品質であるために価格が高いものも、価格に見合った価値があると思わなくなる。

そうして買い手は低価格のものしか求めなくなり、結果的に市場には、低価格で低品質のものしか残らなくなるという現象である。こうした状況に陥ると、買い手が手にするものの品質も、売り手の利益も低下するという、ウィンウィンとは真逆のルーズルーズの結果しか生まれない。