※本稿は奥田祥子『夫婦幻想』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。
働きを評価され嬉しい一方で……
子ども2人を育てながら、懸命に働き、一定の成果を上げてきた経験は、佐野さん自身に仕事での自信をもたらし、もとは望んでいなかった管理職昇進というキャリアアップへの興味が徐々に芽生えていったようだった。
2014年の取材では、こんな複雑な心情を語ってくれた。
「会社では、女性を管理職に積極的に引き上げていこうという気運が高まってきているんです。直属の上司は、私が子育てしながらも、特段の配慮をお願いすることなく、他の社員と同じように仕事に取り組もうと努力していることを評価してくれて、『いずれ課長に昇進させるから、心づもりをしておくように』と言われているんです。正直、うれしかったです。それだけ、自分の働きが認められているということですから。ただ、その……」
「どうしましたか? 何か悩んでいることでもあるんですか?」