夫婦間「勝ち」「負け」という悲劇
「カチ、マケ……」
「えっ? どういうことでしょうか?」
「女性にも管理職になって活躍するチャンスが与えられる時代になって……夫婦の間にまで『勝ち』『負け』が起こり兼ねない状況になったのではないかと。奥田さん、覚えていますか? 最初に取材を受けた時、私は女性を『負け組』と『勝ち組』に分けるなんてナンセンスだと答えた。夫婦にも勝敗なんてあってはいけない。それって悲劇ですよね。でも妻が正社員で働いていたら、どの家庭でも起こり得ることなんじゃないでしょうか。男の面子とでもいうのか、妻に『負ける』のは受け入れられない人は多いと思います。私だって一時期、自分が管理職にならなかったら、夫との関係が壊れなかったんじゃないか、と自分を責めた時もありました。実際に仕事の地位で妻が夫より上になった場合、うまく関係を維持するにはどうすればいいのか……まだ答えは見つからないですが……」
女性としての自身の生き方についてはどうか。
「仕事と家庭の両立、さらに管理職になること……社会が求める『活躍』女性を実現することがイコール幸せ、というわけではないんだと思えるようになって、気が楽になりました。すべて完璧にこなすことなんて無理ですし、例え一時(いっとき)、そうできたとしても、家族、特に夫との関係が良くなければ、いずれ仕事だってうまくいかなくなる。どれも頑張り過ぎず、でもどんなに小さくてもいいからやりがいを見つけて、それで……そんな自分を自分で認められるよう、努力していきたいと思っています」
戸惑い、試行錯誤しながらも、佐野さんは今も着実に歩を進めている。
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京都府生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。元読売新聞記者。日本文藝家協会会員。専門は労働・福祉政策、ジェンダー論、医療社会学。2000年代初頭から社会構造を問うべき問題として男性の生きづらさを追うほか、職場のハラスメントや介護離職問題、シニア人材戦力化の課題、労働問題の医療化等を研究。最長で20数年にわたり、同じ取材対象者に継続的にインタビューを行う。主な著書にベストセラーとなった『等身大の定年後』(光文社新書)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社新書)、『男性漂流』(講談社+α新書)などがある。近著に『抱え込む男たち ケアで読み解く生きづらさの正体』(朝日新書)。
