夫には出世してほしかった

「夫には、出世してほしかった。子育てを手伝ってくれるのはありがたかったですが、それよりも仕事で頑張って、競争を勝ち抜いてもらいたかったんです。でも……私が課長になってからどんどん覇気がなくなり、半年後には昇進するどころか、子会社に出向させられてしまった。その人事も出向して1カ月近く経ってから知って……。悔しかったし、腹立たしかったです。あれだけ仕事を頑張っていた人だから、どれだけつらかったかは想像できます。だからといって……私にまで黙っているなんて……。夫に尋ねると、うつむいたまま、無表情で『そういうことだから……』と小さくつぶやいただけでした……」

それから半年近く、夫とはほとんど口を利いていないという。

「ご主人はなぜ、子会社への出向を黙っていたのだと思いますか?」
「そう、ですね……。やはり、私が管理職に昇進したことが……やるせなかったのではないでしょうか。それに追い打ちをかけるように、今度は自分が左遷のようなかたちになってしまって……。ひと言打ち明けてくれれば、と思いましたが、正直、私も課長になってからストレスが大きく、家庭では子どものことで精一杯で、夫のことまで気にする余裕がありませんでした」
「これから、そのー、ご主人とはどうされたいと考えていますか?」

酷な質問ということはわかりながら、敢えて尋ねてみた。

「このままでは家族が崩れてしまいますし、まず夫婦関係を改善しなくてはならないと思っています。でも、どうすればいいのか……」

そう、彼女は弱々しい声で答えた。