課長の妻とヒラの夫、亀裂の原因は

2019年、45歳になった佐野さんは課長として主要プロジェクトを任されるなど、ますます仕事で能力を開花させている。一方、夫は1年余り前に子会社から会社本体に戻り、関西の支社に赴任した。

単身赴任中の夫の自宅を片づけに来たという彼女と、大阪市内で面会した。明るく穏やかな表情に戻っていて、挨拶も早々、ほっとした気分になった。

「その後、ご主人とはいかがですか?」

単刀直入に質問してみた。

「この2年の間に少しずつではありますが、改善に向かっていると思います。互いにそう努力しているつもりです。子どもたちも中学生と小学校高学年になって、両親の間に入って旅行を計画してくれたりして、気苦労かけて申し訳ない気持ちでいっぱいですが、いつの間にか大人になっていたのだと、夫と一緒に感心しているんですよ」
「それは、よかったですね。ご主人とは今、よく話されているんですか?」
「ええ、単身赴任で夫と物理的な距離ができ、互いに至らなかった点をじっくりと反省したり、相手にあの時、こうしてほしかったという点を整理したりすることができたのもよかったのではないかと思っています。そして、会った時にはそれぞれの思いを包み隠さず吐き出すことが重要ですね。前は冷戦状態でしたから。今はLINE(ライン)とか便利なコミュニケーション・ツールがあるから、夫婦の間でもうっかりしていると面と向かって会話することを省きがちで、それではいけないと気づきました」
「じゃあ、もう以前の仲の良かった関係に戻ったということですね?」
「うーん、それは、どうでしょう……。しこりが全く無くなったかというと、そうではないですね。特に仕事面では、夫は私が課長になったことに、本人の言葉だと『負い目』のようなものを感じていたと言っていましたし……実際には育児の疲れで、仕事に集中できなかったこともあったようなんです。今も私が課長、彼はまだ平社員で、いつ課長になれるかもわかりませんから。ただ、出向して悔しい思いをしたのは間違いないですが、必死に頑張って本体に戻って来た夫です。これからも応援していきたいと思っています」

改めて、夫婦の間に亀裂が生じた要因は何だったのか、問うてみた。