※本稿は奥田祥子『夫婦幻想』(ちくま新書)の一部を再編集したものです
「幻想」という呪縛
共働き世帯が専業主婦世帯を上回ってから20年余り。女性は家庭と仕事を両立させて当たり前という風潮が広まり、さらに2016年に施行された女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)を契機に、管理職に就いて能力を発揮する「活躍」妻が注目を集める時代を迎えている。一方、男性も家庭を顧みない仕事人間はネガティブなイメージで捉えられ、子育てに積極的に関わる「イクメン」が新たな夫像としてもてはやされている。
しかしながら、現実はどうなのか。家事・育児をこなしながら管理職に昇進し、世間が求める女性のライフスタイルを実現したかに見える女性の中には、夫との関係で苦悩を抱えているケースが少なくない。良き夫を目指すあまりに男のプライドとのジレンマに苛まれている男性も多い。行く手には「マミートラック」や「パタニティ・ハラスメント」など、自力ではどうすることもできない厚い壁が立ちはだかる。
社会から期待された女性、男性になろうとすればするほど、最も身近で親密な関係であるはずの夫婦の溝が深まる。そして、自身の理想とかけ離れていく夫・妻の姿に絶望した揚げ句、「幻想」に陥り、その呪縛から抜け出せなくなってしまうのである。
なぜ、「幻想」の中にしか夫婦を描けなくなってしまうのか。ここでは夫婦ともに仕事と家庭を両立させ、「活躍」妻と「イクメン」夫を目指す事例を通して考えてみたい。