条例改正案の何が問題なのか

そんな若者にとってのもう一つの不安材料が、大陸からの圧力によって急速に中国化し、自由を失っていく香港社会の現状であろう。

香港では近年、地元メディア関係者が次々と襲われる事件も起きている。2014年1月には香港の主要紙『明報』の男性編集長が突如解任され、親中派の人物が後任として編集長ポストに就いたが、この翌月には元編集長が白昼に2人組の男に刃物で襲われて重傷を負うという事件が発生した。

また、さらにその翌月には『香港晨報』の幹部2人が鉄パイプを持った4人組に襲撃された。被害者らはいずれも、大陸の政策に批判的な人々であった。そのほかにも、習政権に批判的な書籍を扱う書店の関係者5人が相次いで失踪し、中国側に拘束される事件など、香港の言論の自由を標的とした攻撃は後を絶たない。

これらの事件の背後には中国政府の本音があると感じた香港市民は多いが、そこに降りかかってきたのが、共産党政権からの要請があれば、香港から中国本土への容疑者引き渡しを可能とする今回の逃亡犯条例改正案であった。

この法案を提出したのは、大陸寄りとみられている香港公安局の李家超(ジョン・リー)局長であるが、こんなことがまかり通れば、香港人がこれまで享受してきた自由や権利が大きく奪われてしまい、中国政府が約束した一国二制度が崩れ去るのは時間の問題になる。

このことが、すでに香港の現状や将来に大きな不満や不安を抱いていた若者の怒りを爆発させたのだろう。そして、彼らがそんな不満や不安を共有していたからこそ、カリスマ性を持つリーダーが不在であっても、多くのデモ隊が各地でさまざまな抗議活動を延々と継続し得たと考えられる。

そんな彼らのデモが時にさらに激しい抗議活動にまで発展したのは、本来なら香港市民を守るはずの警察が、逆にデモ隊に対してかなり苛烈かれつな実力行使をしたことに対する強い失望と怒りが広く共有されたからでもある。事実、香港警察に対する怒りは相当に激しいようだ。