漫然と二兎を追えば泥沼にはまる

ブランドコミュニティは、それ自体がひとつの巨大なメディアとなり得る。しかし現在では、ブランドコミュニティにファンやユーザーを吸引しなくても、企業はSNSなどを通じて広く消費者に情報を拡散していくことが可能である。

画像=カルビー・じゃがり校Web
「じゃがりこの食べたい味 大募集!2019」の投票結果。2020年3月発売の新商品は「炙り明太子味」に決まった。

一方で、SNSなどを通じた仕掛けでメッセージを発信していくには、商品の魅力を伝えるコンテンツが必要になる。それはニュース性のある新商品であったり、既存商品の新たな使用方法の提案であったりするわけだが、こうしたコンテンツの開発をユーザーとの密度の高いコミュニケーションを通じて進める動きが、ポスト巨大メディアのブランドコミュニティのマーケティング利用において広がっている。

「じゃがり校」は、変化の激しいウェブ空間のなかにあって、各種の情報を発信するメディアではなく、情報のコンテンツの開発拠点としての役割をになうことで、ブランドコミュニティ・サイトの老舗となっている。

ブランドコミュニティが、メディアとしての可能性を追求するのであれば、会員数を増加させることが重要となる。以前には日本にも、1000万人を超える会員を擁するブランドコミュニティ・サイトがあった。

しかし、コンテンツの開発を支援するのであれば、会員数の増加は必要がないばかりか、弊害を生みかねない。

コンテンツの開発にブランドコミュニティを活用することのひとつの意義は、企業の企画や開発の担当者が、コミュニティの会員と直接、インタラクティブなやりとりができることにある。さらにコミュニティの会員の数を限定するだけではなく、クローズドな場とすることで、会員側、そして企業側の双方において、人目を気にしたり、炎上を恐れたりして、自分の考えを表明することを抑えがちになるオープンなサイトとは異なる関係が生まれる。こうした関係を保つことは、ブランドコミュニティの会員が多くなり過ぎると、難しくなる。

ブランドコミュニティ・サイトをめぐっては、会員の数を追うか、コンテンツの開発を支える拠点としての規模を保つかをめぐり、ジレンマが生じる。漫然と二兎を追えば、泥沼にはまる。

ヒット商品を生み出すカルビーの「じゃがり校」では、入学試験による選抜や、卒業など、コンテンツの開発に必要なコミュニティのあり方に徹した運営が行われている。

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