ランキングの偏りが示す「平成」の時代
たとえば、「アンチドライ」の標的となっていたアサヒは、ビールも飲料も、どちらも20年間でひとつも選ばれていません。また、キリンは、平成13年(2001年)にジャニーズのTOKIOや、いかりや長介、広末涼子に「カンパイ! ラガー!」と歌わせるCMが2位になったものの、それ以外では、清涼飲料水が3本選ばれているにすぎません。
サッポロも山﨑努と豊川悦司の温泉卓球が平成12年(2000年)に1位に、その2年後には、中年男性を主人公に据えた「Love Beer?」が10位に入っていますが、合計で3本にとどまります。
21本のサントリーに対して、ほかの3社を合計しても7本だけです。これだけを見ると、サントリーが『広告批評』に偏愛されたり、えこひいきされたりしているようです。しかしながら、こうした偏りは、サントリーだけではありません。
大日本除虫菊、キンチョーは、先述の通り12本選ばれているのに対して、同業他社はゼロです。また、ナイキも8回入っているものの、これについても同じく、ほかのメーカーは選ばれていません。魔法瓶でも象印だけが選ばれ、ほかは入っていません。もちろん、魔法瓶について言えば、象印以外の会社が、あまり積極的にテレビCMを放送していない、という背景もあります。
ただ、サントリーほどではないにしても、明らかに『広告批評』という雑誌、そして、そこに集い「広告ベストテン」を選ぶ人たちとの相性の良し悪しがあります。その様子が、ランキングの、こうした偏りから見てとれます。
そして、それが「平成」という時代を特徴づけるのです。では、それは何でしょうか。『広告批評』から見る「平成」とは何でしょうか。
その特徴は、変わらなさ、です。
13年も地球に居続ける“宇宙人ジョーンズ”
平成20年(2008年)、『広告批評』最後のベストテンにランクインしたサントリーのCMは、「宇宙人ジョーンズ 地球調査中」です。
平成18年(2006年)の初回登場時に1位になったこのCMは、今さら説明するまでもありません。トミー・リー・ジョーンズ扮する宇宙人が、地球を「この星」と呼び、調査をしている設定です。平成30年(2018年)の最新版は、忠臣蔵編が作られており、13年続いています。
続いているからには、缶コーヒーのBOSSの売り上げは好調なのだし、また、消費者からの支持も集めているのでしょう。また、ハリウッドスターのジョーンズにコメディーを演じさせる芸当は、サントリーでなければできません。
ところで、広告とは、「特定の商品の宣伝と販売という明確な意図/動機に基づいて私企業が不特定多数に向かって発信する陳述の形式」(遠藤知巳「解説」北田暁大『広告の誕生 近代メディア文化の歴史社会学』岩波現代文庫、2008年、246p)のことです。